清澄山系にて。暗い林床の落ち葉の間に何かが落ちていた（写真１）。長さ３センチほどで、黒と白が見える。

　接近してみると、落ちていたのはカミキリムシの１種の死体であった（写真２）。黒っぽい身体に白いカビのようなものが生えている。

　仰向けの姿勢で落ちていた死体をひっくり返してみたら、このカミキリムシの種類がわかった（写真３）。コバネカミキリである。硬い前翅が短く、腹部の半分ほどしか覆われていないのが特徴だ。コバネカミキリは千葉県では記録の少ない種で、清澄山でも数例しか見つかっていない。私自身、生きたコバネカミキリをまだ見たことがない。初めての出会いが死体とは、不運なのか幸運なのか。しかし、これでも貴重なコバネカミキリの記録には違いない。

　カビのように見えるのはボーベリアの１種だ。ボーベリアとは昆虫寄生菌の仲間で、さまざまな昆虫に寄生する。広い意味では「冬虫夏草」の仲間であるが、明瞭な形の子実体（しじつたい）、つまり「きのこ」を作らない。持ち帰った標本を拡大して観察してみた（写真４）。ボーベリア菌は虫体全体を覆っているわけではなく、体節と体節のすき間から出ているのがわかる。昆虫に寄生したボーベリアは、虫の体内に菌糸（きんし）をはびこらせ、栄養を吸収した後、体節と体節の間の膜を突き破って虫の体外に菌糸を伸ばし、繁殖のための分生子（ぶんせいし）を作る。分生子は胞子と同様の粉状の細胞だが、胞子が有性生殖を担うのに対し、分生子は無性生殖を担う。
　（尾崎煙雄）

　コバネカミキリ　Psephactus remiger remiger（カミキリムシ科）

　ボーベリアの１種　Beauveria sp.（コルジセプス科）