No.1721 2019/8/2(金)

 コシアカツバメ


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 コシアカツバメはその名のとおり、赤い腰が特徴のツバメ科の鳥である。日本で繁殖するツバメ科5種のうち、最も体が大きく、尾羽も長い。九州から北海道まで全国で繁殖するが、その繁殖地はきわめて局所的である。また、海岸部から内陸部まで幅広い環境に生息し、いったいどのような基準で繁殖地を選んでいるのかわからない、不思議な鳥である。
 そんなコシアカツバメの繁殖地が、鴨川市にある。繁殖地では、まわりに天敵がいないか確認でもするように、旋回しながら巣に帰るタイミングをうかがう親鳥の姿が見られる(写真1)。その中に、泥をくわえて飛ぶ個体がいた。

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写真1 巣材の泥をくわえて巣の前を旋回する
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 この泥は、巣の材料である。一般的に最も身近なツバメ科の鳥であるツバメと同様に、コシアカツバメも泥や枯草などを人工建造物の壁面や天井に付着させて巣を作る(写真2)。しかし、巣の形がツバメとコシアカツバメとでは全く異なる。ツバメの巣はお椀型で、上部が開いて、中にいる雛を外からでも覗くことができる。これに対し、コシアカツバメの巣は、徳利を縦に半分に割って、断面を天井に貼りつけたような、閉鎖的な空間である。巣の外部とは、細い筒状の入り口部分でしかつながっていないので、中の様子を覗き込むことはできない(写真3)。

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写真2 腰を曲げて長い尾羽を支えにするようにして、器用にバランスを取りながら巣を作る
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写真3 よく「徳利型」と形容される、特徴的な形をした巣
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 このようにユニークな形のコシアカツバメの巣は、どうやら他の様々な動物にとっても魅力的な空間らしい。例えば、スズメやヒメアマツバメが繁殖やねぐらのために利用するほか(平田 2006)、アブラコウモリが巣内で子育てしていたことや(平田 2004)、フクラスズメというガの一種が集団越冬していたという記録もある(平田ら 2004)。しばしば、キツツキが掘った巣穴が樹洞営巣性の鳥類や哺乳類、昆虫などに二次利用されることがある。コシアカツバメもキツツキと同様に、他の動物にとって魅力的な空間を生み出す存在として、生態系の中で興味深い役割を担っていると言えるだろう。

【引用文献】
平田和彦(2004)コシアカツバメの巣におけるアブラコウモリの繁殖記録. コウモリ通信 12(1): 2-3.
平田和彦・杉之原專司・今城香代子・松本 清(2004)コシアカツバメの巣内におけるフクラスズメの集団越冬. Nature Study 50(9): 9.
平田和彦(2006)厳寒期にコシアカツバメの古巣で一緒に就塒したヒメアマツバメとスズメ. Strix 24: 187-192.

 (平田和彦)

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 コシアカツバメ Hirundo daurica(ツバメ科)

 ツバメ Hirundo rustica (ツバメ科)

 ヒメアマツバメ Apus affinis nipalensis(アマツバメ科)

 スズメ Passer montanus(スズメ科)

 アブラコウモリ Arcte coerula(ヒナコウモリ科)

 フクラスズメ Arcte coerula(ヤガ科)

 


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