2019年12月15日、養老川中流の市原市田淵地区に、「市原市田淵地磁気逆転地層ビジターセンター（愛称 チバニアンビジターセンター）」がオープンした（写真１）。建物は仮設のユニットハウス49平方メートルと小規模なものであるが、国指定天然記念物「養老川流域田淵の地磁気逆転地層」について、見学者にその魅力を正しく理解してもらえるよう、市原市が準備を進めてきたものである。
写真１ 市原市田淵にオープンした「チバニアンビジターセンター」
ここには、パネルや研究者による解説映像、地層剥ぎ取り標本（写真２）などが展示され、地磁気逆転の仕組みと地層との関係、地層に含まれる火山灰や化石、地磁気の測定方法などについて知ることができる場所となっている。
写真２ 地層剥ぎ取り標本の展示（現在は解説がついている）
その展示資料のひとつとして、中央博物館では「市原市田淵周辺の地形模型」を制作し、12月6日、オープン前のビジターセンターに搬入した（写真３、４）。
写真３ 中央博物館で制作した地形模型全容 薄い緑色で塗った部分（真中）は、数千年前の養老川本流の蛇行流路跡
写真４ 模型をアクリル板で覆って展示 博物館の展示らしくなる
この模型は、市原市発行の1:2500地形図を拡大し（約150%）、等高線を読み取って制作した丸ごと手作りの積層型地形模型である。水平の縮尺はおよそ1:1660で、等高線間隔も2mという精度のため、かなり細かい地形まで表現されている。模型の表面は、養老川本流を水色で着色し、支流や人工的な水路は青いテープを貼って示している。また崖や斜面の樹林地を除く平坦な場所については、地形図の建物や道路（赤で着色）、水田、畑など土地利用の情報を切り抜き、模型の上に直接貼り付けている（写真５）。
写真５ 積層模型の表面に地形図の建物や土地利用の表示を切り取って貼り付けた
これらはいわば平面の地形図をそのまま立体化したものということになるが、立体化することで、養老川に沿って平坦な地形が何段もある（地形的には河岸段丘）ことが、視覚的に理解できる。一方この地域には、房総丘陵の曲流河川に特徴的な川廻し地形（江戸期以降、新田開発を目的に行われた人工短絡地形）が分布していることから（写真６、７）、それらの跡（フルカワの部分）を空中写真判読や現地調査で確認し、黄緑色で塗り分けた（写真８）。さらに養老川の東側には、数千年前頃に本流がより大きく蛇行していた流路跡（自然短絡）も地形として残っていることから、その部分を薄い緑で着色した（写真３）。これらは地形図には表現されていないが、地形学的な手法で調査することによって明らかになった情報である。
写真６ 地磁気逆転地層の露頭近くに見られる白尾の川廻し地形 赤丸は地磁気逆転地層の露頭位置（写真提供 中央博物館）
写真７ 白尾の川廻しの切り通し（人工短絡）とシンカワ かつてはトンネルであった
写真８ 白尾の川廻し地形（手前の黄緑の部分）と養老川支流沿いに見られる連続型の川廻し地形（背後の黄緑）
このような地形は、「地磁気逆転地層」とは直接的には関わりないが、地形模型には、ビジターセンターや地磁気逆転地層の露頭（写真９）の位置、観光要素として貴重な露頭の近くの不動滝（写真10）などの存在も示した。今話題の地磁気逆転地層を見学に来た人たちに、この地域がどのようなところなのかを知ってもらうためである。この模型を見た後、現場の露頭まで歩いて行く途中で、いろいろな景観（地形）や地層に気づき、地域の歴史や地学的な成り立ちに関心を持っていただくことができればと考えている。現地ではビジターセンターのオープンに合わせ、地元住民や市原市内外のメンバーからなる「チバニアンガイド」も本格的に始動した。ガイドの方々が、見学者への説明の際に、これら展示資料をどのように活用していくのか楽しみである。
写真９ 地磁気逆転地層の露頭（左側の崖）と養老川
写真10 地磁気逆転地層の露頭近くにある不動滝
なおこの地形模型の制作にあたって、模型の基になる等高線図の調整は、中央博物館共同研究員の吉村光敏氏が行った。手のかかる模型の積層・塗色は、市民研究員の佐藤恭子氏、模型表面仕上げは吉村氏と市民研究員の川井恵美子氏が行った。
（八木令子）