教室博日記 No.1819

 2020/06/18(木)

 タマムシの受難

 清澄山系にて。太いエノキの伐採木の幹に大きな穴がいくつも開いていた(写真1)。穴の長径は約1センチ、エノキにこのサイズの穴を開けるのはヤマトタマムシに違いない。

 美しい色がいつまでも退色しないことから、法隆寺の国宝「玉虫厨子(たまむしのずし)」の装飾にこの虫の翅が用いられた。また、見る向きによって変わって見える色彩のことを「玉虫色」というので、ヤマトタマムシは虫に詳しくない人にもよく知られている昆虫だろう。

エノキの伐採木に開いた穴
  • 写真1

 ヤマトタマムシの幼虫は枯れたエノキの材を食べる。幼虫は材の中を穴を掘りながら食い進み、やがて蛹になり、羽化した成虫は穴を開けて材の外へ出る。

 樹皮にちょうど成虫が顔を出している穴があった(写真2)。触角を前に伸ばし、今にも出てきそうに見えたが全く動かない。よく見ると死んでいるようだった。どうしてこんな風に息絶えてしまったのだろうか。

穴から顔を出して死んでいたヤマトタマムシ
  • 写真2

 別の穴の中で動いている成虫を見つけた(写真3)。大顎で一生懸命木を削り、出口を広げているようだった(写真4)。ヤマトタマムシの体の最大幅は頭の幅の2倍程あるので、頭が出てもその倍の幅まで削らないと外に出られないわけである。確かに、写真1の穴はこれよりずっと大きい。

穴の中で動くヤマトタマムシ
  • 写真3
大顎で木を削るヤマトタマムシ
  • 写真4

 木を削っているのをしばらく見ていたが、あまり効率よく削れている様には見えなかった。外へ出るのはとても難儀なことのようだ。先ほど死んでいた個体は途中で力尽きて死んでしまったのかもしれない。

 ふと近くの葉上を見ると成虫が止まっていた(写真5)。無事に外へ出ることができ、ひと休みしているように見えて愛らしかった。

葉の上で休むヤマトタマムシ
  • 写真5
  • ヤマトタマムシ Chrysochroa fulgidissima (タマムシ科)
  • エノキ Celtis sinensis (アサ科)

(斉藤明子)