2020/07/09(木)
ムラサキツバメ
木更津の山中にて。尾根に育ったマテバシイの上部が盛大に切り落とされていた(写真1)。昨年の台風で枝が折れ、付近の住宅に被害が及ぶのを避けるために大規模に剪定されたのだろうか。非常事態のマテバシイは根元近くから盛んにひこばえを出していた。

- 写真1
このひこばえの若葉にムラサキツバメが産卵に来ていた(写真2)。ムラサキツバメは、従来東日本に記録はなかった南方系のシジミチョウだが、1990年代後半から関東地方にも分布を拡げ、今は千葉でも普通に見られるようになった。食樹のマテバシイが街路樹などに広く植栽されていることと、これらの木が剪定されることにより、春以外にもムラサキツバメの幼虫が食べられる軟らかい葉が出ることが、分布拡大に影響しているようだ(小山他,2004)。

- 写真2
ムラサキツバメの翅の裏面は地味な色だが、表には美しく輝く紫の紋がある(写真3)。近縁のムラサキシジミによく似ているが、後翅に尾状突起があることで区別出来る。

- 写真3
低い位置のひこばえは撮影には最適である。何枚も撮影していると、付近にムラサキツバメを狙っているニホンカナヘビがいることに気が付いた(写真4)。ひこばえのやわらかい若芽は産卵には最適だが、樹上の新芽に産卵していればカナヘビに狙われることも無いだろうに、と人間の行い(剪定)が、チョウの運命も変えているような気がした。

- 写真4
- ムラサキツバメ Narathura bazalus(シジミチョウ科)
- マテバシイ Lithocarpus edulis(ブナ科)
- ニホンカナヘビ Takydromus tachydromoides(カナヘビ科)
- 【引用文献】
- 小山達雄・ 井上大成(2004):関東地方北部におけるムラサキツバメの発生経過. 昆蟲(ニューシリーズ)7(4), p.143-153.
(斉藤明子)