2020/09/09(水)
フラスに作られたアリジゴク
清澄山系にて。コナラの根元に大量の粉が降り積もっていた(写真1)。多数のカシノナガキクイムシがコナラの幹に穴を開けて出したフラス(木くず)が積もったものだ。

- 写真1
このフラスの山に穴がいくつも空いていた。なんとアリジゴクだ(写真2)。

- 写真2
ウスバカゲロウ類のいくつかの種の幼虫は、軒下や床下など雨の当たらない砂地にすり鉢状の穴を作り、すり鉢の底で大顎(おおあご)を大きく広げてアリなどの昆虫が滑り落ちてくるのを待つ。そのようなウスバカゲロウ類の幼虫が作る巣、あるいは幼虫そのものをアリジゴクと呼んでいる。
大量に積もったフラスに作られたアリジゴクは、よく見る砂地に作られたアリジゴク(写真3)と形状が違う。すり鉢のように口が広くはなく、筒型に近いのだ(写真4)。

- 写真3 軒下の砂地に作られたアリジゴク

- 写真4 フラスに作られた筒型のアリジゴク
これはきっとフラスと砂の粒子の安息角の違いによるものだね、と同僚が教えてくれた。広辞苑によると安息角とは、「石炭・石炭灰・ぼた・土壌などを積んだ斜面が崩れ落ちないで安定している最大角」とある。カシノナガキクイムシの出したフラスは、乾いた砂などより安息角が大きいことがアリジゴクの形状の違いの原因となっているのだ。
より斜面のきつい筒型のアリジゴクの方が、落ちた獲物に脱出されにくいことがあるかも知れない。しかし、フラスに作られたアリジゴクは砂地に作られたものよりも直径が小さいので互いの距離が近くなり、ひとつのアリジゴクに餌が落ちる確率は減ってしまうような気がする。フラスと砂地に作られたアリジゴクのどちらが有利か、実験してみたら面白いと思う。
それにしてもウスバカゲロウはよくこのような場所を見つけたものだ。このコナラがかなりの大木だからこそ、根元に雨の当たらない場所を作り、この木にカシノナガキクイムシが加害したことでフラスを積もらせ、アリジゴクに適した環境がうまれたのだ。虫に加害されて枯れそうなコナラの大木には気の毒だが、珍しいものを見て得した気分がした。
- コナラ Quercus serrata(ブナ科)
- カシノナガキクイムシ Platypus quercivorus(ゾウムシ科)
- ウスバカゲロウの一種 Myrmeleontidae sp.(ウスバカゲロウ科)
(斉藤明子)