教室博日記 No.1898

 2020/12/09(水)

 台風被害のタブノキの萌芽

 館山市の沖ノ島を10年ぶりに訪れた。記憶が10年前のものなのではっきりしないが、島を見た瞬間に「もうちょっとこんもりした島だった気がするけどなあ」と思った(写真1)。でも冬だから植物の葉が多少落ちてすっきりしているのかもしれない、と勝手に納得して島に入った。

陸地側から見た沖ノ島
  • 写真1

 しかし、島に入ってすぐに、根元から倒れている大木を見つけた(写真2)。これはもしかして・・・と思いながら島の南側にある宇賀明神のほうに行った時に、最初に感じた違和感が間違っていなかったことがわかった。

  • 写真2 根元から倒れた大木

 10年前には、宇賀明神の小さな祠の背後にタブノキの大木がそびえていた(写真3)。

  • 写真3 2010年6月の宇賀明神と背後のタブノキ

 私は当時植物の名前をたいして知らなかったので、「沖ノ島にはヤブニッケイやタブノキなどからなる照葉樹林がある」と聞いてはいたが、どれがヤブニッケイでどれがタブノキなのかよくわかっていなかった。そんな中、島一番の大木として「タブノキ」という樹名板がかかっていたこのタブノキは、樹種に迷うことなくありがたい存在だった。

 そんなタブノキが、昨年千葉県を直撃した台風15号の被害を受けて倒れてしまったようである。島一番の大木が倒れたのだから、島全体が「すっきり」して見えるのも道理であった。それに、倒れたのはこのタブノキや写真2の大木だけではないようだ。10年前の宇賀明神のまわりは背の高い常緑広葉樹が生い茂ってうっそうとしていたのに、今ではすっかり開けた場所になってしまっていた(写真4)。

  • 写真4 正面から見た宇賀明神

 ちょっと寂しい気持ちでタブノキの生えていた場所を見ると、もっさりとした大きな緑の塊がある。よく見ると、倒れたタブノキの切り株から大量の萌芽が出ている(写真5)。切り株の切断面が横を向いているのがどういうことなのかよくわからなかったが、それが確かめられないほど萌芽で覆い尽くされていた。

タブノキの切り株から生えた大量の萌芽
  • 写真5

 萌芽は、木が倒れたり切られたりした後に、残った切り株や根から生じる新しい芽のことである。この性質を利用して、昔の里山の薪炭林では、10~20年周期で伐採と再生を繰り返していた。これを萌芽更新という。

 「島一番の大木のタブノキ」は倒れてしまったが、まだ生きていて、切り株から再生しようとしているのだ。タブノキ頑張れよ、と心の中で思いながら島を後にした。

  • タブノキ Machilus thunbergii(クスノキ科)

(西内李佳)