教室博日記 No.1903

 2020/12/21(月)

 高宕山—硬岩のピーク

 このところ、主に砂と泥の地層からなる上総層群の山や谷を歩くことが多かったが、久しぶりに硬い地層がみられる地域(怒田沢-八良塚-高宕山-高宕大滝-怒田沢)を訪ねた。房総特有のアップダウンが激しい山道には辟易したが、時折見られる山並みに心が和んだ(写真1、2)。

  • 写真1 鹿野山-鬼泪山を一望
  • 写真2 安房高山方面

 今回登った高宕山山頂付近から八良塚の北側にかけては、硬い凝灰質の礫岩層からなるが(写真3)、岩体は割れ目が顕著で、深い谷に崩れ落ちた転石もあちこちに見られた(写真4)。

  • 写真3 高宕山の礫岩
  • 写真4 巨大な転石があちこちに見られる

 それに加えて、2019年9月に発生した風台風による倒木(倒木+土層)が目立ち、かなり荒れた様子だった(写真5、6)。しかし昨年から1年余りで山道を修復し、歩きやすいように階段状のステップが切られていたり、脇道ができていたりしたのには感心してしまった。山道を整備している方々には頭が下がる。

  • 写真5 倒木+土層 その1
  • 写真6 倒木+土層 その2

 高宕山には、ちょうど10年前の夏にも登ったことがある。当時は文化財課で天然記念物の仕事をしていたので、人里に降りてきてしまっている「高宕山のサル」の本来の生息地がどのようなところなのかを見たくて登ったのだった。その時と比べても、山の状態は随分変わってきたような気がする(写真7、8)。

  • 写真7 今回は寄らなかった高宕山330mのピーク(2010年7月)
  • 写真8 高宕山山頂からの眺望(2010年7月)

 ところで高宕山は、上総層群の分布域よりも少し南側に位置していて(図1)、それより少し古い三浦層群安野層の分布域にあたる。しかし高宕山山頂付近の礫岩は、上総層群基底の黒滝層(このあたりは同時異相の竹岡層?)である。これはこのあたりが褶曲の向斜(注1)の中軸にあたるため、ここだけスポット状に安野層より新しい黒滝層(竹岡層)が露出しているのである。しかも向斜軸なので本来なら谷になるはずなのだが、硬い礫岩が侵食から取り残され、逆に周囲より高くなってピークになっている(向斜山稜)。まさに岩石の硬軟による差別侵食でできたケスタ地形である。ちなみに高宕山の南西部に位置する「房州石」で有名な鋸山も、同じような成り立ちである。

  • 図1 上総層群の分布域と高宕山の位置

 ここには示していないが、高宕山付近もスポット状に上総層群が分布している。

(注1)大地が横方向から強く押し続けられると、地層は次第に折れ曲がり、盛り上がって山になる部分と、押し下げられて谷になる部分ができる。このような折れ曲がった地層のかたちの変化を「褶曲」といい、山になる部分を「背斜」、谷になる部分を「向斜」という。

(八木令子)