教室博日記 No.1915

 2021/02/12(金)

 ナミハンミョウの幼虫

 ナミハンミョウはとても美しい大型(体長2はセンチほど)の甲虫だ。夏、河原や山道を歩いていると、この虫が足もとを飛び立って数メートル先に降り立ち、近づくとまたこれを繰り返すので「ミチオシエ(道教え)」と呼ばれる。

 君津の放棄水田で粘土質の崖を崩すと、土中で越冬していたナミハンミョウの幼虫を掘り当てた(写真1、2)。

  • 写真1 土中のナミハンミョウの幼虫
  • 写真2 ナミハンミョウの幼虫のいた崖の断面と幼虫のいた穴(矢印)(上とは別の個体)

 成虫は肉食で、獲物(昆虫類やミミズなど)に噛みつくために鋭い大顎を持っているが、幼虫も肉食で、成虫よりもさらに凶悪な顔つきだ(写真3)。

  • 写真3 凶悪な顔つきの幼虫

 夏の終わりに羽化した成虫は、土の中で越冬し、翌春、交尾産卵する。この日、土中で春を待つ成虫も見つかった(写真4)。不思議なことに、成虫の体に泥はまったくついておらず、夏の美しさと変わりは無かった。

  • 写真4 土中から出てきたナミハンミョウの成虫

 春になると成虫は繁殖行動を初め、初夏までに産まれた卵から孵化した幼虫は1年から2年、長いときは4年もの期間を土中で過ごす。

 暖かい時期には巣穴の入口で大顎を広げて獲物を待つ。平たい頭と前胸の背板が、蓋のように巣穴の入口を塞いでいる。獲物の目をごまかすためか、蓋の一部となる前胸背板にはいつも泥がついている。脅かすとあっという間に奥に引っ込んでしまう(写真5、6)。

  • 写真5 巣穴の入口で獲物を待つ幼虫(2010年8月6日大多喜町で撮影)
  • 写真6 驚かすと幼虫は奥に引っ込んだ(2010年8月6日大多喜町で撮影)

 幼虫の身体にはさらに工夫がある。腹部の背中側には前方を向いたトゲ(写真7の矢印)があり、縦穴の中でしっかり餌をとらえるためのアンカーになっている。

  • 写真7 幼虫の腹部の背中には前方を向いたトゲがある

 穴に獲物が近づくと、飛び掛かって大顎で獲物を挟んで穴に引きずり込み、体液を吸い取り、食べかすは穴の外に投げ捨てる。その投げ捨てられた食べかすを拾い集めて何を餌にしているのか調べた結果、多かったのはアリだが、他にも巣穴に引きずり込めるものなら何でも食べているのだそうだ。

 ハンミョウについては『日本のハンミョウ』(堀,2019)という本にたいへん詳しく書かれている。

  • ナミハンミョウ Sophiodela japonica(オサムシ科)
  • 【参考文献】
  • 堀道雄(2019) 環境Eco選書 日本のハンミョウ. XIV+317pp., 北隆館, 東京.

(斉藤明子)