教室博日記 No.1956

 2021/05/4(火)

 タカサゴキララマダニ

 木更津の谷津田にて。かつては水田が広がっていたと思われるが、放棄されて長年経つのか人の造った道はすっかり無くなっていた。なんとか獣道を辿って歩いていると、服に巨大なマダニが付いていた(巨大といっても体長7ミリ程度)。タカサゴキララマダニという大型のダニだ(写真1)。

手の上のタカサゴキララマダニ
  • 写真1

 マダニは昆虫ではなくクモに近い節足動物で、動物に寄生して吸血する。マダニに刺されると口が皮膚にしっかり食い込み、簡単には取り除けない。数日掛けて吸血すると体長が1センチ以上になることもある。特に大型のタカサゴキララマダニは、満腹まで吸血すると2センチほどの大きさになるようだ。

 この日は、このマダニを持ち帰り標本にした。顕微鏡で観察すると、太く長い口の先にギザギザの“返し”があることに気が付いた(写真2、中央の太い部分の前半)。ダニにがっしり刺されると簡単には口が抜けないのは、この仕組みのせいなのだ。

  • 写真2 タカサゴキララマダニの口器

 Tsunoda(2004)および竹村明浩ら(2017)によると、この巨大なマダニは2000年代に入ってから千葉県(鴨川市)での生息が明らかになり、シカなど寄主動物の生息域の拡大に伴い、この種の生息域も拡大しているようだ。マダニに刺されると感染症の心配もあるので、この種も含め小さなマダニにも刺されないように注意が必要だ。野山を歩くときは必ず長袖、長ズボンに長靴の出で立ちで、ときどき服に付いてないか確認するようにしている。

 思いがけずこの大きなダニに付かれたせいで、ふだんあまり注意深く見ることの無い、昆虫以外の生きものを細かく観察することができた。

  • タカサゴキララマダニ Amblyomma testudinarium(マダニ科)
  • 【参考文献】
  • 竹村明浩・田﨑穂波・平良雅克・藤曲正登(2017) 千葉県におけるタカサゴキララマダニの分布状況. 千葉衛研年報(66): 72-76.
  • Tsunoda, T.(2004) Tick bite cases in researchers studying deer in Boso Peninsula, central Japan. Med. Entomol. Zool. 55(3 ): 243-245.

(斉藤明子)