2021/05/26(水)
ムラサキシジミの幼虫とトゲアリ
君津市にて。アラカシの倒木の幹に芽吹いた葉に、トゲアリが3匹、ずっとまとわりついていた(写真1)。

- 写真1
よく見ると長さ15ミリ程度のムラサキシジミの幼虫がいた(写真2)。幼虫は薄緑色で目立たないため、トゲアリだけが目にとまったのだ。写真を撮った後、トゲアリに触れてみたが幼虫の近くを離れようとはしなかった。

- 写真2 アラカシ葉上のムラサキシジミの幼虫とトゲアリ

- 写真3 ムラサキシジミ成虫(2008年千葉市)
シジミチョウの幼虫は腹部第7節にある特殊な腺から蜜を分泌し、その蜜を求めてアリが集まる。その結果、幼虫は天敵である寄生蜂などから守られる。最近の研究では、ムラサキシジミの幼虫が分泌する蜜を摂取したアリの脳内のドーパミン量が減少し、歩行活動が減少することがわかっている(Hojoほか、2015)。つまり、幼虫は、天敵から身を守るためにアリに蜜を与えて、自分のまわりに長く留まらせているということだ。私がトゲアリに触れても幼虫から離れようとしなかったのはそのためだったのだ。さらにムラサキシジミは16種ものアリを随伴できるのだそうだ(Nakabayashiほか、2020。ただしこの論文中にトゲアリは含まれていない)。
アリとしては大型のトゲアリにまとわりつかれたら恐ろしい気がするが、恐ろしがるどころかアリを制御しているのである。ひ弱そうな幼虫の奥に秘められた力を感じた。
- アラカシ Quercus glauca(ブナ科)
- トゲアリ Polyrhachis lamellidens(アリ科)
- ムラサキシジミ Arhopala japonica(シジミチョウ科)
- 【参考文献】
- Hojo, M.K., N.E.Pierce and K.Tsuji (2015) Lycaenid caterpillar secretions manipulate attendant ant behavior. Current Biology 25:2260-2264.
- Nakabayashi, Y., Y.Mochioka, M.Tokuda and I.Ohshima (2020) Mutualistic ants and parasitoid communities associated with a facultative myrmecophilous lycaenid, Arhopala japonica, and the effects of ant attendance on the avoidance of parasitism. Entomological Science 23:233-244.
(斉藤明子)