教室博日記 No.1985

 2021/07/09(金)

 「百目木(どうめき)」を訪ねる

 小糸川は、JR内房線君津駅と青堀駅の間にある橋梁の下で、支流の百目木(どうめき)川が本流に合流する(図1)。この支流は、現在は三舟山の南側の丘陵谷津が水源となって富津市内を流れるが、上流から中流にかけて、直線化した人工的な流路が続く。その途中、富津市二間塚に川の名前と同じ「百目木」という場所がある。

 この「百目木(どうめき)」という地名は、難解な読み方のひとつに数えられるが、その由来は、「どうどうと流れる水の音を形容したもの」と言われ(「角川日本地名大辞典 千葉県」1984など)、水に関係した場所につけられることが多いようだ。実際にどのようなところなのか確かめたくて、富津市二間塚の百目木地区を訪ねてみた。

  • 図1 百目木川周辺の地形 国土地理院 1:25,000地形図「富津」(部分)を基に作成

  百目木川の両岸は小糸川左岸の広い沖積低地で、圃場整備された水田が広がっている(写真1)。海に近い左岸側には、富津市の有名な古墳群が点在する。百目木地区は、このような広い水田地帯から住宅や古墳が混在する市街地の境目に位置している。

  • 写真1 百目木川両岸には広い低地と圃場整備された水田が広がる

 この地区の百目木川にかかる飯野橋から樹木に被われた川面を見ると、両岸は護岸されているが、意外と流れは速い(写真2、3)。ここからも水の音が聞こえてきそうだが、橋をわたる車の音に消されてしまっているようだ。

  • 写真2 百目木川にかかる飯野橋(図1の×印のところ)
  • 写真3 飯野橋から見た百目木川の流れ

 そこで道路を離れ、わきの細い道に入ると、そこは百目木川のさらに支流の谷底で、一転して静かな空間になる(写真4)。樹木に被われて水流は見えないが、かすかに水の音が聞こえてくる。広い敷地の民家もあるが、びっしりと樹木に囲まれている。防風林かと思ったが、この辺りは特に低くなっているので、水害防備林の役目があるのかもしれない(写真5)。

  • 写真4 百目木川支流の谷底(百目木地区) 奥の竹やぶが続いているところが流路
  • 写真5 百目木地区の民家を囲む防風(水害防備?)林

 さらに道を進んでいくと、百目木川の支流と交叉する場所があった。幅1メートルほどの本当に小さな流れであるが(写真6)、水量は多く、「さわさわ」というせせらぎの音が聞こえてきた。地名の由来にあった「どうどうと流れる水の音」ではないが、かつてはこのような心地良い水音があちこちで聞こえていたのであろう。

  • 写真6 百目木川支流のせせらぎ ここから「さわさわ」という音が聞こえる

 しばらく行くと再び百目木川が現れた(写真7)。そこから上流側は直線化された流路が続き、水の音は聞こえなくなった。

  • 写真7 百目木地区の上流側は直線化された水路が続く

 千葉県内にはここ以外にも「どうめき」という地名の場所がいくつかある。袖ケ浦市にある小櫃川の旧流路跡に立地する「百目木公園」や、現在は川の向こう側になってしまった「百目木飛地」も、川の水音に由来したものであろう。また市川市北西部の国分川西岸に広がる縄文時代の「道免(どうめ)き谷津遺跡」は、「どうめき」のあて字?ということだろうか。谷津の谷壁斜面から湧く水の、ささやかな水音が想像できる。一方、房総南部の鴨川市太海地区にも「百目木」がある。こちらはどうどうというダイナミックな海の音に由来するのであろう。

  • 【参考文献】
  •  角川日本地名大辞典編集委員会編(1984):角川日本地名大辞典12. 千葉県

(八木令子)