教室博日記 No.1996

 2021/07/30(金)

 養老川支流古敷谷(こしきや)川の甌穴(おうけつ)群

 市原市を流れる養老川支流の古敷谷川の河床には、甌穴(ポットホール)と言われる大小の穴が多数分布している。市の教育委員会から一度見に来ませんかと言われていたが、地元の方が案内してくれるというので、河川地形に詳しい中央博の元地学研究科長吉村氏と一緒に見に行った。

 現地は、養老川中流の高滝湖に流れ込む古敷谷川上流の西川の河床である(図1)。このあたりも河川は曲流し、川廻しトンネルや旧河道跡が分布している。地層は上総層群柿ノ木台層の泥層で、川幅一杯に水流が見られるが、水深は浅い。房総丘陵を流れる河川に特徴的な平滑岩盤河床である(写真1)。

  • 図1 古敷谷川流域 今回歩いたのは赤丸のあたり 国土地理院 1:25,000地形図「大多喜」(部分)を基に作成
  • 写真1 古敷谷川支流西川の平滑岩盤河床と谷壁斜面(上総層群柿ノ木台層が露出)

 待ち合わせをさせていただいた民家の裏にまわると、岩盤が階段状に削られていて、河床面まで安全に降りられるように整備されている(写真2)。しかし歩き始める頃から天気が怪しくなり、雨が降り始めてしまった。ほとんど流れが止まっていたような河川も、急に流れが強くなってきた(写真3)。しかし泥の河床は水流があるところの方が滑らないので、かえって好都合であった。

  • 写真2 岩盤を削って作った階段
  • 写真3 雨が降り始め、一気に水流が激しくなった

 上流に向かって歩き始めると、すぐに緩やかな滝(平滝)があり、そのあたりから河床にいろいろな形の大小の穴が見られるようになった。ポットホールというとまん丸な形を思い浮かべるが、小さな丸い穴が直線状に連続するもの、細長い溝に沿った不定形のものや、ハート型などいろいろである(写真4~7)。深さが1メートル程あるものや、浅いものなど、深さもいろいろであるが、直径が数メートルあるような巨大なものや、ものすごく深い穴はなさそうである。

  • 写真4 丸い穴が直線状に連続
  • 写真5 箱尺で穴の深さを測る
  • 写真6 溝に沿って分布する不定形の穴
  • 写真7 一般受けしそうなハート型

 少し遡るとまた滝があり、滝下や滝の途中などに何カ所も穴が分布しており、「甌穴群」といえるような景観が見られた(写真8~9)。

  • 写真8 滝の途中に分布する甌穴群
  • 写真9 滝下は滝壺?

 ところでこれら甌穴(ポットホール)の成因については、一般的には、川の流れによって作られる地形で、岩盤の河床のわずかな窪みに石が入り込み、流れによってその石が回転し続けることによって窪みが段々と大きくなり、穴となったものと言われている。従ってほとんどは洪水時の強い流れで作られると考えられている。

 しかし実際には穴の形もまちまちで、中には四角っぽいものもあり、「中に入った石が回転してできた」ような丸い穴ばかりではない。また房総丘陵を流れる河川のように、主に上総層群の砂や泥からなる岩盤は比較的柔らかくて侵食されやすいが、中に入った礫自体もそれほど硬くないとすれば、くるくる回転しているうちにすぐにボロボロになってしまうのではないか。それとも洪水時に上流から運ばれてきた礫であれば、上総層群のより古い時代の地層からなり、河床を作る岩盤より相対的に硬いということだろうか。

 さらに滝のところに穴が多数分布しているということも気になる。滝の下、滝の途中など、穴が分布する位置によって、でき方も異なってくるだろう。今回は河床の様子を見るにとどまったが、ポットホールの形態や成因については、いくつかの類型に分けて説明した方がいいのではないかという話になった。そのためには分布の特徴、形態や河床の微地形、岩相などを調査する必要がある。

 雨の中を歩いて元の場所まで戻ってきたら、雨は止み、青空が出て川は穏やかな流れに戻った(写真10)。降雨による河川の流れの変化が実感できた一日でもあった。

  • 写真10 雨が止んだ後の古敷谷川

(八木令子)