教室博日記 No.2077

 2022/02/24(木)

 「砂坂」の丘陵をつくる地層と水

 小糸川の南、富津州の根元のあたりに標高66.1mの神明山を含む小さな丘陵がある(写真1、図1)。斜面の地形は対称でなく、北斜面(写真1の左側)の方が侵食が進んでいる。

 この丘陵鞍部を通る「砂坂」の景観については、昨年の教室博日記で述べた(No.1974)。砂坂の両側の崖は、樹木やコンクリートで被われていて、道路沿いに地層が露出しているところはほとんどなかったが、その後、丘陵北側の谷沿いで地層を観察した。

  • 写真1 西側から見た丘陵、北側(左側)の斜面は侵食が進んでいる
  • 図1 砂坂周辺の地形 カシミール3D(スーパー地形)の段彩陰影図に地名などを加筆 ×印は湧水が見られたところ

 西谷の堰の西側の崖(図1、Loc.1)は、泥や細粒の砂層などを挟むが、全体として中~粗粒の砂からなる(写真2、3)。ここより上流側ではほぼこの砂層が丘陵上部を構成している。5万分の1地域地質図「富津」の下総層群地蔵堂層で、「砂坂」の名前の由来の砂層であろう。

  • 写真2 図1、Loc.1の露頭
  • 写真3 露頭下部に見られる中~粗粒の砂層

 一方少し下流側でこの崖の続きを見ると、砂層の下に、相対的に硬いシルト~細粒砂が現れる(写真4)。丘陵下部に見られる上総層群周南砂岩部層(笠森層)で、地質図によると、不整合で地蔵堂層に被われている。ここではいつも崖がぬれていて、水滴がポタポタ落ちている(写真5)。

  • 写真4 下流側 地層の境界(上部は砂層、下部はシルト~細砂)
  • 写真5 硬いシルト層の部分 水がしみ出している

 このように地層から水が湧いているのは、図1のLoc.2~4でも見られた。特にLoc.2では、谷壁斜面の下に直径2mくらいの水たまりができていて(写真6)、地元の方の話では、植生に隠れて見えないが、脇の崖から常に水が湧いていて、この水が干上がることはないという。このお宅では、谷津の谷頭の方からも水をひいていて(写真7)、水道は使っていないということだ。

  • 写真6 谷壁から浸み出す水がたまっている(図1、Loc.2)
  • 写真7 谷頭の方から水をひいている

 湧き水は、丘陵の北側ではあちこちに見られるが、南側には見られない。その理由を考えてみよう。この地域で見られた湧き水の位置(上部の砂層と下部のシルト層の境界)を、1:2500地形図を基に作った丘陵の南北方向の地形断面図に落としてみると図2のようになる。実際には地層の境界は凹凸があるが、全体として北向きに数度傾いている。地質図にも下部の周南部層は北~北西に3~5°落ちの記載がある。

  • 図2 丘陵の地形地質断面

 丘陵上部の粗粒な砂の地層は水を通しやすく、下部の細粒の地層は水を通しにくい。このような場合、上の地層を透水層、下を不透水層と呼ぶ。地表に降った雨は透水層に浸みこんで下へ移動するが、不透水層にぶつかると横方向に流れ、やがて地表に湧き出す。ここでは不透水層が北に緩く傾いているため、水は北側に集中する。南向きの崖では、砂層とシルト層の境界でも湧水は見られない。

 この丘陵の北斜面の方が侵食が進んでいる(谷の規模が大きい)のも、谷頭や谷底の高さがほぼ揃っているのも、北側の丘陵の出口に大きな堰が作られているのも(写真8)、この水の存在が関わっていると思われる。「水の力、恐るべし」である。

  • 写真8 丘陵北側の堰 この背後にももうひとつ堰がある
  • 【参考文献】
  •  地域地質研究報告(2005):5万分の1地質図幅「富津地域の地質」(産総研地質調査総合センター)

(八木令子)