教室博日記 No.2083

 2022/03/11(金)

 泥岩の中に棲むニオガイの化石

 館山市内にて。岩盤の平坦面にたくさんの穴があいていた(写真1)。穴の直径は1~2センチできれいな円形~楕円形。ひょっとすると、この穴の中に穴を掘った何かが暮らしているかもしれない。ドキドキしながら、ひびに沿って岩を剥がすと、二枚貝の化石が姿を現した(写真2)。

  • 写真1 岩盤の平坦面に見つけたきれいな穴
  • 写真2 巣穴の中に収まるニオガイの化石

 これは、ニオガイと呼ばれる二枚貝だ。現在の海では、波打ち際~水深数十メートルの範囲に棲んでいる。軟らかい泥岩にイチジク形の巣穴を掘って、一生を巣穴の中で過ごす。ニオガイのように、岩石などに巣穴を掘る貝類のことを穿孔貝(せんこうがい)と呼んでいる。

 しかし、この場所は現在の海からはだいぶ離れている。地図を見ると、標高は5~10メートルの間だ。数千年前のこの場所は、波の影響を受けて岩盤に平坦面が作られていたらしい。そこにニオガイが巣穴を掘って棲んでいたようだ。館山市内で調査をすると、穿孔貝の巣穴の化石をよく見かけるが、貝殻が残されていることはめずらしい。

 ニオガイの殻表面を観察すると、細かい突起をたくさん備えている(写真3)。大根おろしを作るときに使うオロシ器にそっくりだ。貝殻の開閉・回転・前後運動によって、殻表面の突起を巣穴の壁面に押し当てて、岩石を削ってゆくらしい。

  • 写真3 ニオガイの殻表面に見られる突起

 とても機能的な構造で、感心せずにはいられない。ただし、ニオガイは殻長3センチ程度と小さいので、大根おろしを作るには時間がかかりそうだ。冷や奴に載せる生姜をおろす程度なら、ちょうど良いかもしれない。

  • ニオガイ Barnea fragilis(ニオガイ科) 
  • (千葉友樹)