教室博日記 No.2089

 2022/04/07(木)

 ヒメツチハンミョウ

 大多喜町の山中にて。今年の房総丘陵の山では、春の訪れが昨年よりだいぶ遅いようだ。この日は虫の集まるカエデの花もまだ咲いておらず、虫の姿も少なかった。そんな中、ヒメツチハンミョウの雄が林床をせっせと歩いていた(写真1)。この種は成虫越冬するため、晩秋や早春にもしばしば見かける。

  • 写真1 ヒメツチハンミョウの雄

 ヒメツチハンミョウはツチハンミョウ科に属し、美しくて素早く飛ぶハンミョウとは別の科の甲虫だ。体長は2センチほどで、雄では触角の一部(第5〜7節)が幅広いのが特徴だ(写真2)。雄も雌も後翅は退化して飛ぶことはできない。

  • 写真2 雄の触角第5〜7節は幅広い

 思いのほか速く歩いていたので、どこへ向かうのかしばらく追ってみた。せっせと歩いてはときどき立ち止まり、触角を前に伸ばした頭を左右に動かしては再び歩き出していた(動画)。あの独特の触角で雌の臭いを探しているのかも知れないが、見ている限り雌に出会うことは無かった。

  • 動画

 ヒメツチハンミョウを追うのを諦めてしばらく山中を歩いていると、腹部が大きく膨らんだ雌を見つけた(写真3)。

  • 写真3 ヒメツチハンミョウの雌

 ヒメツチハンミョウの幼虫はハナバチの巣でハナバチが集めた花粉を食べて育つ。土中で孵化した幼虫は草を登り、通りがかる生き物にしがみつく。たまたまハナバチにしがみつき、巣までたどり着いた幼虫だけが育つことができる。これは全くの運任せだ。だから雌は4000個もの卵を産む。写真の雌のお腹の中にはそれほどの数の卵が入っているということだ。

 雌の居た場所は、先ほど雄を見た場所から1キロほど離れている。あの雄がせっせと歩いてもたぶんこの雌に出会うことはないだろう。

  • 【参考文献】
  •  舘野 鴻(2016) つちはんみょう.偕成社
  • ヒメツチハンミョウ Meloe coarctatus(ツチハンミョウ科)

(斉藤明子)