フィールドノート No.2111

 2022/05/20(金)

 色々な場所に巣穴を掘るイシマテ

 館山市内にて。この場所では、数千年前の内湾にたまった泥層が観察できる。泥層中に硬そうな岩石が含まれていた。ハンマーで割ってみると、細長く殻の薄い二枚貝の化石が出てきた(写真1)。イシマテと呼ばれる二枚貝の化石で、岩石中に巣穴を掘る穿孔貝の仲間だ。

  • 写真1 硬そうな岩石に巣穴を掘るイシマテの化石(殻長は約3.8センチ)
  •  巣穴の壁面に見られる白い薄層(黄色三角)はイシマテが作った石灰質の棲管(せいかん)

 穿孔貝と言えば、殻表面の突起を巣穴の壁面に押し当てて、岩石を削るニオガイ(教室博日記No.2083)やカモメガイ(フィールドノートNo.2104)が有名だが、イシマテの殻表面はツルツルだ(写真2)。イシマテは化学物質を出して、岩石を溶解あるいは軟弱化させることで岩石中に巣穴を掘ると言われている。

  • 写真2 イシマテの化石(殻長は約3.8センチ)

 サンゴの化石も落ちていたので、ハンマーで割ってみると、またイシマテの化石を見つけた(写真3)。

  • 写真3 サンゴに巣穴を掘るイシマテの化石
  •  写真左上部には巣穴に収まったイシマテが見られる。写真中央部には穿孔貝の巣穴の断面が見られる(貝殻は抜け落ちてしまっている)

 さらに、ウミギクという赤くて棘の生えた二枚貝の化石も落ちていたので、殻表面を観察すると、ここにもイシマテらしき二枚貝の化石が入っていた(写真4、5)。イシマテは色々な場所に巣穴を掘ることができるらしい。

  • 写真4 二枚貝(ウミギク)に巣穴を掘るイシマテらしき化石(青色矢印)
  • 写真5 写真4の拡大

 館山の見物(けんぶつ)海岸では、生きているイシマテを見ることができる。磯観察をすると、石灰質のストロー状の物体とイシマテの先端が顔をのぞかせている(写真6)。

  • 写真6 館山市の見物海岸で見られる生きているイシマテとその巣穴(黄色三角、撮影日:2022/4/30)

 ストロー状の物体はイシマテの棲管(せいかん)だ。棲管によって巣穴の入口が狭められているので、イシマテを手でつまむこともできない。この棲管が壊れているものを狙って、引きずり出してみよう。イシマテと人間の綱引きだ(写真7)。

  • 写真7 イシマテと人間の綱引き(撮影日:2022/4/30)

 あまり強くつまむと、殻が割れてしまうので、力加減には注意が必要だ。想像以上に力が強く、てこずったが、生きているイシマテにお目にかかることができた(写真8)。イシマテは足糸(そくし)と呼ばれる糸を出して、巣穴の壁面と体をつなぎとめている。このため、簡単に巣穴から引きずり出すことはできないようだ。巣穴の中にとどまることで、外敵から身を守っているように思われた。

  • 写真8 生きているイシマテ(殻長は約4.6センチ、撮影日:2022/4/30)
  •  足(写真下側の軟体部)から足糸を出し、巣穴の壁面と体をつなぎとめる。水管(写真左側の軟体部)から海水を吸いこんで、有機物を食べる。
  • イシマテ Leiosolenus curtus(イガイ科)
  • ニオガイ Barnea fragilis(ニオガイ科)
  • カモメガイ Penitella sp.(ニオガイ科)
  • ウミギク Spondylus barbatus(ウミギク科)

(千葉友樹)