フィールドノート No.2207

 2022/11/17(木)

 アキノタムラソウ

 清澄山系にて。林道脇の崖にアキノタムラソウがまだ花を咲かせていた(写真1)。

アキノタムラソウ
  • 写真1

 名前に「秋」とついているが、花期は7~11月と長い。林縁や畦道などに普通に見られる草だ。夏の初めに早めに咲いた個体を見て「おお、もう咲いているな」と思い、冬の初めに咲き残っている個体を見て「まだ咲いているのか」と思う。花は鮮やかな紫色で、よく見ればけっこう綺麗だ。

 そんなアキノタムラソウは、サイズの変異が激しい。写真1の崖に生えた個体は、草丈12センチほどとかなり小さい。ここはあまり日当たりがよくないようだ。一方、夏に日当たりのよい場所で見たアキノタムラソウは、別の植物かと思うくらい大きかった(写真2、3)。草丈80センチはあっただろうか。そこは山中の歩道の脇のような場所だった。

アキノタムラソウ
  • 写真2 2022/8/3南房総市で撮影
アキノタムラソウ
  • 写真3 2022/8/3南房総市で撮影

 では、写真1のように崖に生えるものは小さいのかと思いきや、そうでもない。写真4、5は7月に清澄山系の林道脇の崖に生えていた個体。草丈は30センチくらい。ここは少し明るい環境だった。

アキノタムラソウ
  • 写真4 2022/7/28清澄山系で撮影
アキノタムラソウ
  • 写真5 2022/7/28清澄山系で撮影

 夏でも草丈が小さいものを見たことがあるので、花が咲く時期はサイズにあまり関係ないようだ。結局サイズが何に影響されているのかはよくわからないが、日当たりの違いがやはり大きいような気がする。

 写真1の個体のすぐ近くには、花が終わって果実をつけた個体もいくつかあった(写真6)。写真1よりは大きいが、それでも草丈15センチ程度。

アキノタムラソウ
  • 写真6 左上に写っているのが写真1の個体

 小さい個体でも、ちゃんと果実は実るようだ。果実は萼(がく)の中にできる。萼は結構毛深い(写真7)。

アキノタムラソウの果実
  • 写真7

 萼の中には果実(分果)が4つ入っている。やや細長くて、断面が二等辺三角形(写真8)。この平らな面(三角形の同じ長さの辺)がそれぞれの分果に接する形で萼の中に入っているのだ。

アキノタムラソウの果実
  • 写真8 1目盛1ミリ

 ところで、アキノタムラソウはシソ科アキギリ属である。学名の属名はSalvia、つまり赤い花を咲かせる園芸植物としてお馴染みの「サルビア」の仲間だ。そして種小名はjaponica。日本の他にも朝鮮半島や中国に分布するが、日本産の標本に基づいて18世紀に命名された。学名まで親しみやすいというか覚えやすいとは、究極の普通種という感じがする。サルビアと違って大きく育ちすぎる点が園芸には向かないようだが、野山で大小様々な姿で花実をつけ、長く楽しませてくれる植物である。

  • アキノタムラソウ Salvia japonica(シソ科)

(西内李佳)