フィールドノート No.2212

 2022/12/09(金)

 長寿二枚貝ビノスガイの化石

 木更津市内にて。この場所では、約30万年前の内湾にたまった砂層が観察できる。地層中に白く見えるものは貝化石だ(写真1)。

  • 写真1 貝化石密集層(スコップの柄の長さは約10.5センチ、写真の上が地層の上位、黄色三角はビノスガイの化石)

 今日のお目当ては、ビノスガイと呼ばれる二枚貝の化石だ。この場所のビノスガイはもろく、完全な貝殻はなかなか拾えない。夕方まで粘って、ビノスガイの化石を集めた。大きなビノスガイの化石を拾うと、大物を獲った気分になる。殻は丸みを帯びた三角形、大きなものは殻長10センチに達する(写真2、 3)。

  • 写真2 ビノスガイの化石(殻長は約10センチ)
  • 写真3 ビノスガイの化石(写真2の内面)

 殻表には規則的な輪肋(りんろく)があり、その間に砂粒がはさまりやすい(写真4)。無理に砂粒を取ろうとすると、貝殻を傷つけてしまうので、そのままにしている。

  • 写真4 ビノスガイの殻表に見られる輪肋(写真2を拡大)

 殻内面の縁辺部には、微細な刻み目がある(写真5)。

  • 写真5 ビノスガイの殻内面の縁辺部に見られる刻み目(写真3を拡大)

 ビノスガイは東北地方や北海道の寒い海で現在も暮らしていて、長寿な二枚貝として知られている。ビノスガイを含めた二枚貝類は、殻の縁辺部に新しい殻を付け加えて成長する。貝殻を切断して研磨すると、断面に成長とその休止に伴って形成された縞模様(成長線)が観察できるらしい。現生ビノスガイの成長線から寿命を推定した研究によると、100年以上生きる個体もいるというから驚きだ。では、約30万年前の木更津で暮らしていたビノスガイも長寿だったのだろうか。気になって仕方ないので、成長線を解析できる研究者に頼んで調べていただいている。結果が楽しみだ。

  • ビノスガイ Mercenaria stimpsoni(マルスダレガイ科)

(千葉友樹)