フィールドノート No.2221

 2022/12/21(水)

 イイギリ

 清澄山系にて。尾根を歩いていて、木々の間に赤いものが見えた。果実をたくさんつけたイイギリである(写真1)。

果実をたくさんつけたイイギリ
  • 写真1

 イイギリは落葉高木で、樹高15メートルほどになる。育てやすく、赤い果実が美しいので、公園などにもよく植えられる。目にする機会は少なくない樹木だが、高木すぎて、見上げても花や果実がよく見えないことがある。イイギリはやや湿り気のある環境を好むので、房総丘陵では谷間に生えていることが多い。写真1のようにイイギリを見下ろすことができるのは、尾根歩きならではと言える。

 果実はブドウのように房状になってぶら下がる(写真2)。赤は鳥にとって目立つ色で、それがこんなにたくさんついているのだから相当鳥の目に留まっているはずである。それなのに、イイギリの果実はなかなかなくならない。だいたい3月くらいまで残り、その頃急になくなる印象だ。

イイギリの果実
  • 写真2

 つまり、イイギリの果実はあまり美味しくないのだろう。採集した果実を囓ってみたが、やや苦みがあるだけで確かに美味しくなかった(写真3)。

  • 写真3 割った果実。黒い粒は種子

 美味しい果実を作るには、それなりにコストがかかる。他の植物の果実がなくなった頃に鳥に食べてもらうことにして、赤く目立つだけの「安上がり」な果実を長くつけておく、というのがイイギリの戦略らしい。3月頃に急に果実がなくなって裸になったイイギリを見ると、その戦略は一応成功しているような気がするが、鳥に食べられる前に風で落ちてしまう果実も多い(写真4)。

風で落ちたイイギリの実
  • 写真4 2022/12/25生態園で撮影

 イイギリは雌雄別株。中央博物館の生態園の雌株は、下から見上げても回りの常緑広葉樹の葉に隠れてよく見えない。地面に落ちた果実を見た人は「いったいどこから落ちてきたのだろう」と不思議に思うらしく、「あれはなんの実ですか?」という質問も多い。一面に落ちている果実と樹上に残る果実を見ると、じつは重力散布(ただ落ちるだけの種子散布様式)なのでは・・・とちょっと疑いたくもなるが、イイギリはそんな私の疑念などどこ吹く風で気長に鳥を待っているようである。

  • イイギリ Idesia polycarpa(ヤナギ科)

(西内李佳)