フィールドノート No.2245

 2023/03/20(月)

 出会えるとうれしい、チリメンユキガイの化石

 山武郡にて。この場所では、数千年前の内湾にたまった砂泥層が観察できる。二枚の殻が合わさった状態の二枚貝の化石を見つけた(写真1)。

  • 写真1 砂泥層中のチリメンユキガイの化石(スコップの柄の長さは約10.5センチ、写真の上が地層の上位)

 これはチリメンユキガイと呼ばれる二枚貝だ。チリメンユキガイは砂泥中に潜って暮らしている。この化石は死後も海底から掘り出されず、生きていたときの姿勢のまま地層中に保存されたものだ。

 チリメンユキガイをやさしくなでていたら、地層から分離したので、標本として持ち帰った。殻が薄くて壊れやすいため、慎重に水洗いして砂泥を落とした。殻は楕円形で膨らみが強く、後端が少し細まる(写真2)。殻表面の茶色い物体は、殻皮(かくひ)と呼ばれ、貝殻が溶けないように保護する役割がある。殻皮は貝が作り出したものなので、剥がさずに残してある。

  • 写真2 チリメンユキガイの化石(殻長約7.3センチ、写真右側が後端)

 殻の表面には、縮緬(ちりめん)状の筋があり、ときどき分岐する(写真3)。殻の縁辺部に向かって、筋は太くなる。

  • 写真3 チリメンユキガイの化石(写真2と同じ標本の殻表面を拡大)

 見た目は地味なチリメンユキガイだが、出会えるとうれしい。なぜなら、現在は絶滅寸前(絶滅?)で滅多にお目にかかれないからだ。現在は有明海と瀬戸内海に分布するとされるが、近年は生きた貝が見つかっていない。一方で、数千年前の化石は、大阪府・神奈川県・千葉県・秋田県から報告がある。過去の温暖期に分布域を広げたことが知られている。

  • チリメンユキガイ Meropesta sinojaponica(バカガイ科)

(千葉友樹)