フィールドノート No.2249

 2023/03/23(木)

 ビャクシンさび病

 館山市の海岸付近にて。海岸砂丘にイブキ(別名ビャクシン)の木が何本か生えていた(写真1)。イブキは海岸近くに生育するヒノキ科の樹木。生垣などによく用いられるカイヅカイブキはこのイブキの栽培品種だ。

  • 写真1

 枝にたくさんついたクリーム色の粒々はイブキの雄花(写真2)。同じヒノキ科のスギやヒノキの雄花と似ている。

  • 写真2

 雄花の他に枝に何かがついているのが目に留まった(写真3)。明るいオレンジ色でゼリーのようなぶよぶよした質感。

  • 写真3

 よく見るとあちこちに同じようなゼリー状の物体がついていた。先のとがった紡錘型で長さ1センチほどのものが多い(写真4)。これはビャクシンさび病という木の病気で、原因となるのは「ビャクシンさび病菌」という菌類だ。オレンジ色のゼリー状の物体はビャクシンさび病菌の冬胞子堆(ふゆほうしたい)で、冬胞子と呼ばれる胞子を多量に含んでいる。雨水に濡れると写真のように水を吸ってふくれ、ゼリー状になる。

  • 写真4

 採集して持ち帰ったところ、乾いた冬胞子堆は干からびたように縮んでしまった(写真5)。

  • 写真5

 ためしに乾いた冬胞子堆を水につけてみたら、またふくらんできた(写真6)。やはり水を吸収してふくらむ性質があるようだ。

  • 写真6

 ビャクシンさび病菌はイブキなどのビャクシン類に寄生する菌類だが、そのせいでビャクシン類が枯れることはない。しかし、その胞子が風に乗ってナシなどのバラ科の樹木に運ばれるとその葉や幼い果実に感染する。そしてナシに感染した場合、「ナシ赤星病」という病気を引き起こし、葉を枯れさせることもある。ナシ赤星病はナシ農家にとっては大敵。このため千葉県北西部などナシ産地の自治体にはビャクシン類を植えることを禁止する条例があるところが多い。

  • イブキ(ビャクシン) Juniperus chinensis var. chinensis(ヒノキ科)
  • カイヅカイブキ Juniperus chinensis 'Kaizuka'(ヒノキ科)
  • ビャクシンさび病菌 Gymnosporangium asiaticum(糸状菌 担子菌類)

(尾崎煙雄)