フィールドノート No.2293

 2023/10/06(金)

 意外にも珍しい、アラレタマキビの化石

 館山市内にて。この場所では、数千年前の内湾にたまった砂層が観察できる。崖下で小さな巻貝の化石を拾った。アラレタマキビの化石だ(写真1、2)。

  • 写真1 アラレタマキビの化石(目盛りの単位はミリ)
  • 写真2 アラレタマキビの化石(写真1と同じ標本)

 殻は丸みを帯び、殻表面の横筋の上に細かい粒々が見られる(写真3)。この標本は殻表面が摩耗しているので、粒々が少しわかりにくい。

  • 写真3 アラレタマキビの殻表面(写真1と同じ標本)

 アラレタマキビは、現在の海でも生きた個体がいる。特に、波当たりの強い岩礁でよく見られ、潮が満ちても波しぶきだけがかかる岩場に付着している(写真4、5)。磯で生き物の観察会を開催すると、必ずと言って良いほど観察できる巻貝だ。

  • 写真4 岩場に付着する現生のアラレタマキビ(スコップの刃の長さは約6センチ、富津市金谷にて)
  • 写真5 現生のアラレタマキビ(写真4を拡大)

 磯観察ではありふれた巻貝だが、地層中からの化石となると意外にも珍しい。当館の貝化石コレクションの中には、アラレタマキビの登録標本がひとつも見当たらないほどだ。

 その理由として、波当たりの強い岩礁では貝殻が破損しやすいことが挙げられる。さらに、地層中に化石として保存されるためには、砂や泥などの堆積物に埋もれる必要がある。波当たりの強い岩礁では乱流が発生しやすいため、堆積物がたまりにくい。岩礁に生息する貝類も堆積物中に埋もれる機会が少ないため、化石として残りにくいと言われている。たまたま砂底などに運搬されて埋没した、ごく一部の貝殻だけが化石として保存される。

 このような悪条件を乗り越え、アラレタマキビが化石になったかと思うと、ありがたみを感じる。

  • アラレタマキビ Echinolittorina radiata(タマキビ科)

(千葉友樹)