フィールドノート No.2294

 2023/10/06(金)

 かわいそうな名前、イジケガイの化石

 館山市内にて。この場所では、数千年前の内湾にたまった泥層が観察できる。地味な二枚貝の化石を崖下で拾った。イジケガイの化石だ(写真1、2)。

  • 写真1 イジケガイの化石(目盛りの単位はミリ)
  • 写真2 イジケガイの化石(写真1と同じ標本の内面)

 殻形は歪(いびつ)で、殻は厚くて小さい。殻表面には粗い成長線が見られる。匙(さじ)状の弾帯受が特徴だ(写真3の黄色矢印)。お世辞にもきれいな貝とは言えないが、味わい深い貝だと思う。

  • 写真3 イジケガイの弾帯受(写真1と同じ標本)

 イジケガイは現在の海でも生きた個体がいる。主に海藻の根元でひっそりと暮らしているらしい。漢字で書くと、萎縮貝。小さくて歪な殻に加えて、海藻の根元に潜り込む生態にちなむと思われる。すばらしいネーミングセンスだが、かわいそうな名前だ。

 イジケガイの化石を見る機会は少なく、当館の貝化石コレクションの中にも登録標本がひとつもないほどだ。地味過ぎて誰も見向きもしなかったのだろうか。後ほど、貝化石コレクションに登録する予定だ。

  • イジケガイ Sphenia coreanica(オオノガイ科)

(千葉友樹)