フィールドノート No.2254

 2024/11/29(金)

 自然薯とシキミと猿

11月10日、君津市の清和地区文化祭で自然薯を購入した。 清和の「じねんじょ」は、その味はもちろん、粘りも国内最高水準とされている特産品である。とろろ汁を作るのにおろし金を使うとこびりついてしまうほどで、やはりミキサーを使うほうがよいかもしれない。 ところで江戸時代に書かれた地誌『房総志料』をみると、清和地区近隣の自然薯について次のような記述がある(現代語訳)。


望陀郡亀山領(のち亀山村、上総町)の山の住民は自然薯堀りを生業としている。   彼らはシキミを折って腰に携え、自然薯一本を掘るごとにシキミで覆い隠す。   こうしないと全て猿が食べ、そのお腹を満たしてしまうのだ。   猿はシキミが大の苦手なのである。                                (『改訂房総叢書』三・地誌一)


シキミは全体が有毒で、特に果実の毒性が強い。誤食すると嘔吐や下痢、めまいに始まり、痙攣、呼吸麻痺などが起こり命を落としてしまう(小川賢一ら編/学研教育出版発行『危険・有毒生物』2003)。かつては土葬の墓に、鳥獣による掘り起こし防止等のため、周囲にシキミを植えたともいう。 当時の農業技術、植物利用を伝える興味深い記事である。

  • 写真 清和地区の「じねんじょ」
  • 自然薯(ヤマノイモ) Dioscorea japonica (ヤマノイモ科)
  • シキミ  Illicium anisatum(マツブサ科)

(小川宏和)