イソギンチャクとキンチャクガニの仲間

 クマノミとの関係の次に有名なのは、なんといってもカニやヤドカリとの関係でしょう。ここではそんな例をいくつか紹介しましょう。
 ダイビング雑誌などでよく目にするのは、キンチャクガニでしょう。キンチャクガニは,カニハサミイソギンチャクやカサネイソギンチャクの仲間、またヨロイイソギンチャクの仲間など(イソギンチャクの分類に関しては諸説ある)、必ずイソギンチャクを手に挟んでいます。このイソギンチャクは、一見、カニのハサミに“くっついている”ようにも見えますが、実はそんな生やさしいものではなく、カニは2つのハサミに、まさにイソギンチャクを挟んでいるのです。このカニのハサミはイソギンチャクをしっかり持つことができるようなつくりになっています。

挟まれてしまうイソギンチャク
キンチャクガニにしっかり挟まれてしまっている
カニハサミイソギンチャク

 大事なハサミをイソギンチャクばさみに使ってしまうほどなのですから、カニはそれを補えるほどのイソギンチャク利用法を持っています。キンチャクガニは、敵におそわれると、このイソギンチャクを振りかざして相手を威嚇(いかく)するのです、特に、タコ相手には、このイソギンチャク攻撃が非常に有効なようです。キンチャクガニがイソギンチャクを振りかざす姿が、ボクサーに似ているということで、英語では、このカニをボクサークラブと呼びます。ただし、甲幅が数cm 程度の小さいカニなので、その姿はボクサーというより,ボンボンをもったチアガールのように感じられます。
 さて、野外ではイソギンチャクを持っていないキンチャクガニというのは、ほとんど見つかりません。一体キンチャクガニは、このイソギンチャクをどこから探してくるのでしょうか? 実は、カニハサミイソギンチャクに限っては、カニから離れて生活しているものが見つかっていないのです。いつもカニに挟まれているイソギンチャクが、どこでどうやって繁殖しているのか? カニはどの成長段階でこのなくてはならないイソギンチャクを手に入れるのか? 謎は多く残されています。なにしろイソギンチャクの方がカニよりずっと小さいわけですから、野外では探すといっても、なかなか容易ではありません。この他、ヒメキンチャクガニやケブカキンチャクガニも同様にイソギンチャクをハサミに挟んでいます。また、スベリヘイケガニというカニは、常に背中に貝殻を背負っていますが、この貝殻についているカニイソギンチャクというイソギンチャクが報告されています。しかし、こちらは常にこのカニに付いている、というわけではないようです。

キンチャクガニ ヒメキンチャクガニ ケブカキンチャクガニ

キンチャクガニ

ヒメキンチャクガニ

ケブカキンチャクガニ