2021/01/07(木)
この日出会った生きもの
木更津の谷津田にて。この日は爆弾低気圧の影響でたいへんな強風が一日中吹き荒れ、森の近くは木々が風にあおられていろいろな音を出すので恐ろしいくらいだった。強風から逃れて、丘陵部の麓で崖を掘ったところ、いろいろな生き物に出会うことができた。教室博日記No.1905でも紹介したが、崖を掘ると土の中で越冬中の虫を見つけることができるのだ。
まず落ちてきたのは、スジアオゴミムシ(写真1)。大型(23ミリ前後)で、普通に見られるゴミムシだ。

- 写真1 スジアオゴミムシ
ふと、掘っている崖の近くに大きなヒキガエルがいることに気付いた(写真2)。まだ冬眠している時期のはずだが、崖から掘り出した覚えは無いので、土の中で寝ていたわけでは無さそうだ。この日は気温が高く、私の崖掘りに驚いて歩き出したのだろう(写真3)。

- 写真2 アズマヒキガエル

- 写真3 アズマヒキガエル
次はスズメバチが2匹落ちたきた(写真4)。腹部の先端が黒いのでヒメスズメバチだ。こちらは寒くてほとんど動けず、ころころと転がって仰向けになってしまった。

- 写真4 ヒメスズメバチ
あと、ニセコガシラアオゴミムシ(写真5)(体長13ミリ前後)と、前胸が紫色に光るルイスオオゴミムシ(写真6)(体長16ミリ前後)も出てきた。ここが分布の北限に近い房総丘陵に特産の亜種アワカズサオサムシも居たのだが、写真を取り損ねた。

- 写真5 ニセコガシラアオゴミムシ

- 写真6 ルイスオオゴミムシ
ここまでは日の当たらない暗い崖で見つけたものだ。別の日当たりの良い崖では、カメムシとハチが落ちてきた。カメムシはアカシマサシガメ(写真7)(体長12ミリほど)。昆虫やヤスデなどの体液を吸う肉食のカメムシである。ハチは持ち帰って調べてみるとギングチバチ科のナミコオロギバチのようだ(寺山他,2016)。体長は14ミリほど。コオロギバチ類は、幼虫の餌としてコオロギを狩り土の中に運び込むらしい。夏にまたここを訪れて、コオロギを運ぶこのハチを探してみようと思う。

- 写真7 アカシマサシガメ

- 写真8 ナミコオロギバチ
藪の中ではキョンに出会った。キョンは小型のシカの仲間で、外房地域の施設から逃げ出して野生化した外来種だ。私の気配に気が付くとあっという間に姿を消した。私は枝をまたいだりくぐったりで、藪の中ではなかなか先に進むことができないが、小柄なキョンにとってはこんな藪はなんでも無いのだ。近くにはキョンのものと思われる糞が落ちていた(写真9)。シカの半分ほどの小粒の糞だ。
昨年、地元の方から、このあたりにはシカは居ないがキョンが多い、と聞いていた。外房からどんどん生息地を北へ広げているようだ。

- 写真9 キョンの糞
帰り道、山道でアズマモグラが死んでいた(写真10)。まだ死んでからそれほど時間は経っていないようだった。何があったのだろう。

- 写真10 アズマモグラの死体
- スジアオゴミムシ Chlaenius costiger(オサムシ科)
- アズマヒキガエル Bufo japonicus formosus(ヒキガエル科)
- ヒメスズメバチ Vespa ducalis(スズメバチ科)
- ニセコガシラアオゴミムシ Chlaenius kurosawai(オサムシ科)
- ルイスオオゴミムシ Trigonotoma lewisii(オサムシ科)
- アワカズサオサムシ(ルイスオサムシ房総半島南部亜種) Carabus lewisianus awakazusanus(オサムシ科)
- アカシマサシガメ Haematoloecha nigrorufa(サシガメ科)
- ナミコオロギバチ Liris subtessellatus(ギングチバチ科)
- キョン Muntiacus reevesi(シカ科)
- アズマモグラ Mogera imaizumii(モグラ科)
- 【参考文献】
- 寺山守・須田博久(編著)(2016) 日本産有剣ハチ類図鑑.東海大学出版部, 735 pp.
(斉藤明子)