2021/03/26(金)
ハマダイコン
房総南部の海沿いでは、至るところでハマダイコンの花が満開だった(写真1)。

- 写真1
ハマダイコンは「ハマ」の名前の通り、海沿いに生える植物だ。しかし、ハマダイコンをあちこちで見ていると、なんだか微妙な場所に生える草のような気がしてきた。
「ハマ」を名乗っていながら、砂浜を見渡してもハマダイコンは見当たらない。砂浜には生えないのかと思ったら、なんとこんなところにちゃっかりいた(写真2)。

- 写真2
ハマダイコンが隠れるように生えていたのは、砂浜に生える低木のハマゴウの下。この砂浜では、このハマダイコンが最も海に近い位置に生えた個体だった。潮風や飛んでくる砂からハマゴウに守ってもらっているのだろうか。
以前、海岸植生に詳しい先輩職員に、ハマダイコンの生える立地について聞いたことがある。その回答は「砂浜というより漁村の花という感じ」だった。「漁村の花??」とピンとこなかったが、まさに漁村に生えているハマダイコンを見て納得した(写真3)。

- 写真3 漁村に生えるハマダイコン
多少土壌がないと生育できないようだな、と思ったのも束の間、今度はとんでもないところに生えているハマダイコンを見つけた(写真4)。

- 写真4 河口の護岸ブロックに生えるハマダイコン
「土壌がある」とは言い難い気がする場所だが、こういう場所には植物が生えているのを案外見かける。わずかな土壌がコンクリートブロックの隙間や窪みに溜まるのだ。ハマダイコンはそれを見逃さなかったのであろう。
ハマダイコンは海流散布の植物である。それは果実を見れば一目瞭然だ(写真5)。

- 写真5 ハマダイコンの果実の断面
発泡スチロールのような果実の中に種子が入っている。くびれた所からちぎれ、水に浮く仕組みだ。こんな仕組みを備えているのに、砂浜にあまり生えないのはなにか勿体ない気がする。しかし、環境の厳しい砂浜よりも海沿いのわずかな土壌を狙う戦略が成功しているらしいことを、たくさんのハマダイコンの花を見ているうちに実感した。
- ハマダイコン Raphanus sativus var. hortensis(アブラナ科)
- ハマゴウ Vitex rotundifolia(シソ科)
(西内李佳)