《鳳翔薫炉》 1937(昭和12) 鋳金  25.5×41.5×16.1cm
前へ 戻る 次へ
津田信夫

1875(明治8)〜1946(昭和21)

 鳳翔とは、鳳凰と飛翔を組み合わせた語で、吉兆時に鳳凰が空高く舞うような様を意味する。薫炉とは香炉が香る様子をあらわしていることから、めでたい時に芳しい香りを漂わせる炉の意となる。
 胴体部分をくり抜いて香炉とする構造だが、各部の表現に特長がある。たとえば前後の足は、鳥というより四本足の陸上動物のようであり、あまり例がない。尾は、孔雀を模すのが通例だが、それをたった一つの模様で表現している。大胆なデザインだと思う。翼はまるで反りの美しい刀のようであり、しかもその付け根はらせんを描いている。このように、いくつもの特徴を持たせながらも、作品全体を破綻なくまとめている。
鳳翔という名にふさわしい、気品と躍動感ある作品であり、1937年(昭和12)第1回新文展に出品した、津田信夫の代表作のひとつである。
 津田は、佐倉市出身で、東京美術学校教授を40余年間勤め、帝展工芸部設置等、広く工芸の発展に寄与した。当館では、主要な作家の一人として作品収集し、金工作品はもとより、陶芸、書など、60数点の作品を収蔵している。 (中松れい)