《鳩香炉》 1949年(昭和24) 鋳金  15.0×12.0×7.5cm
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香取秀真

1874(明治7)〜1954(昭和29)

 千葉県生まれで文化勲章を受賞した人は二人いる。一人は気象学者の岡田武松博士。もう一人が香取である。香取は近代鋳金界の第一人者で、同時に金工史家。正岡子規門下の歌人としても活躍した。
 香取が古典派となった背景には、明治維新による社会的変革がある。装剣金工や仏具などの需要がほとんど絶え、金工技術は絶滅寸前であった。秀真は日本金工史を研究して技術保持に努め、新時代に対応しようとした。
 香取は印西市船穂に生まれ、4歳の時から佐倉市に住む親類の神官、郡司家で育った。多感な少年時代に万葉集を愛読した。複雑なものを単純化し洗練する日本の美の精神を、短歌から学んだ。1897年(明治30)に東京美術学校鋳金本科を卒業。母校の教授を務め、国宝保存会委員として古美術品の保存にも貢献した。
  《鳩香炉》は、1949年(昭和24)の作で秀真の代表作。戦後、秀真は動物をモチーフにした香炉を日展に多く出品した。制作にあたっては日本や中国の古典的工芸を探求し、かつ時代感覚の表出に務めた。
  鳩の胸は羽根の雷文にみられる中国古代の文様の近代的アレンジ。足はヨーロッパ風の表現に共感したもので、全体に革新的デザイン感覚をごく自然に取り入れている。かつて或る動物園長がこの作品をみて、「この鳩は生きている。ぜひ売ってほしい」と所望したことがある。少し首をかしげた表情が実に良いというのだった。(米田耕司)