教室博日記 No.1960

 2021/05/07(金)

 黒ボク土-火山灰に由来する土

 小糸川下流沿いには、現在の川の流れより少し高い位置に平坦な地形が分布している(写真1)。これらを外側から見ると、一見植生に覆われたふつうの山(丘陵)という感じだが、川沿いの低地から少し急な坂道を登り切ると、突然別天地のような広い平坦面が広がっている(写真2)。

  • 写真1 君津市下湯江地区の河岸段丘(2段ある)
  • 写真2 段丘面上の平坦面

 これらは河岸段丘と呼ばれ、かつて川がその高さのところを流れていたことを示す地形である(教室博日記No.1839)。この地域の段丘面はよく手入れされ、どの季節でも畑作物が植えられ、収穫されている(写真3)。今回特に目を引いたのは、きれいに耕された土だ(写真4)。見事に黒くて、植えられている作物の緑色とのコントラストが美しい(写真5)。

  • 写真3 どの季節でも作物が植えられている
  • 写真4 見事なほど黒い土
  • 写真5 黒と緑のコントラストが美しい

 これは関東地方でよく見られる黒ボク土、火山灰に由来する土壌だ。土は地表の岩石が風化して細かい砂や粘土となり、それらに植物の遺体やミミズなどの働きが加わってできたものだが(図1)、日本のような火山国では火山灰(火山噴出物)を材料としてできる土がたくさんある。

 千葉県には火山はないが、西側には富士山や箱根火山などがあるため、これらが噴火すると、偏西風に乗って火山灰が房総半島の方に飛んでくる。遠く九州の火山から飛んできた火山灰もある(貝塚ほか、1985)。

  • 図1 土は表層の1mくらいの部分(目代、2010を元に作成)

 凹地状のところや平坦な地形の上には堆積しやすいため、河岸段丘の表層は火山灰(関東ローム層)で被われていることが多い(写真6、7)。噴火から長い時間がたつと、イネ科草本を主体とする植物遺体が分解してできた腐植が厚く溜まり、やわらかくて黒みが強い土ができる。

  • 写真6 段丘面の表層に見られる火山灰層、上部の黒い部分が黒ボク土
  • 写真7 かつての川の跡であることを示す段丘堆積物(円礫層)とその上の火山灰層

 ところでこの黒ボク土、いかにも栄養がありそうだが、実はアロフェンと呼ばれる粘土鉱物が多く含まれていて、作物の成長に必要なリン酸不足をもたらすため、昔は農業にはあまり適さない土であると言われていた。しかし近年(高度経済成長の頃)、リン酸肥料を主体とした土壌改良によって、黒ボク土の分布する地域で、ほとんどの農作物が栽培できるようになった。土としては柔らかくてホクホクしているため、耕しやすいという利点もあった。日本の国土の1/6を占めるという黒ボク土、土壌改良は農業の大きな転換点になったことだろう。

  • 【参考文献】
  •  貝塚爽平ほか(1985):日本の平野と海岸. 岩波書店, 226p.
  •  目代邦康(2010):地層のきほん. 誠文堂新光社, 143p.

(八木令子)