雌が子育てをするアミメハギ Rudarius ercodes

アミメハギの産卵の瞬間(水槽写真.手前が雌)

産卵後,卵の世話をするアミメハギの雌


 アミメハギはカワハギの仲間では小型種で,成魚でも全長70mm足らずにしか達しません.生息場所は日本の温帯域沿岸で,浅い岩礁や内湾のアマモ場などで普通に見られます.海に潜ったことのある人ならば,この愛らしい魚に幾度か出会っているのではないでしょうか?目をクリクリと動かし,一瞬にして体色を変え,ヘリコプターのように水中でホバリングすることの出来るアミメハギを見ていると,ほんと飽きないでよすね.この愛嬌たっぷりのアミメハギに魅せられて繁殖行動の観察を始めたのは1989年のことで,場所は福岡県津屋崎町の恋の浦の岩礁です.
 アメメハギが産卵を行うのは日の出前後の朝早い時刻です.産卵を観察するのに眠い眼をこすりながら,まだ日の昇らない真っ暗な海へ何度も通いました.産卵の前になると,雄はおなかの大きな雌を盛んに追尾するようになります.追尾する雄は雌の後ろに一列に並び,時には長蛇の列を作って泳ぎます.雌は何カ所か行き来した後に産卵場所を決定し,海藻の上で雌雄がおなかを合わせてほんの2〜3秒の内に放卵・放精が完了します(写真左).
 産卵が終わると,雌はその直後から卵保護を開始します.すなわち,鰭で水をおくったり口で水を吹きかけたりして,酸素をたっぷりと含んだ新鮮な水を卵に供給します(写真右).また,卵に近づく魚を発見すると猛スピードで突進し,その侵入者を追い払います.時には自分の体の何倍もあるマダイやネズッポなどに果敢にアタックするのが見られ,そのけなげな姿には水の中でも思わず拍手をおくりたくなります.
 このように雌に保護されてすくすくと育った卵が孵化するのは,産卵から1〜3日後の日没後のことです.孵化間近になると,雌は卵の孵化を促すかのように普段よりいっそう強く卵に水を吹きかけます.すると卵は一斉に孵化し,親元を離れて広い海の中へと旅だってゆきます.孵化したときのアミメハギの仔魚の全長はおよそ1.9mm,体は透明でまだ口は開いていません.これらの仔魚は浮遊生活をおくり,その間に徐々に変態しておよそ20〜40日後に浅い岩礁やアマモ場に姿を現します.

詳しい内容は,
Kawase H. and A. Nakazono. 1995. Predominant maternal egg care and promiscuous mating system in the Japanese filefish, Rudarius ercodes (Monacanthidae). Env. Biol. Fish., 43: 241-254.