《ナポリ近郊の思い出》1860〜1875 油彩・カンバス・額 41.0×62.0cm
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コロー

1796〜1875:Jean- Baptiste Camille COROT

 コロ−は、裕福な服地商人の子としてパリに生まれた。小さい頃から画家になることを夢見ていたコローは、仕事の手伝いから解放されて26歳の時にようやく画業に専念するようになり、風景画家を志した。そしてパリ郊外のバルビゾン村をはじめフランス各地に写生旅行をしたほか、当時、芸術の理想とされたイタリアに三度遊学して絵の修行をした。
 この作品は、最後のイタリア訪問(1843〜1844)から約20年間も経過してから描かれた。このように後期のコローの作品には、追憶の形式をとるものが多く、代表作の一つである《モルトフォンテーヌの思い出》などはその好例である。また、画風も以前の堅牢で明快な表現から、事物の姿が霧で包まれたような描法に変わり、微妙な色の諧調が顕著となる。本作品も、その特徴を示し、森や樹木や建物、そして、吟遊詩人らしき人物が銀灰色の柔らかな彩調に包まれて、画面は典雅な詩情を漂わせている。(藤川正司)