調査研究事業:「房総(千葉県)の地衣類誌」の概要
 
第2の目標: 千葉県内における地衣類の分布の解明
 
2-4.3次メッシュについて
世界測地系の緯度経度で記録する

採集地点の位置情報をメッシュコードではなく,緯度経度で記録することにしました.もちろん世界測地系です.

 

最初のうちは,日本測地系に基づく「千葉県メッシュマップ」などの紙の地図を持って行って,調査時に地図に地点を記録し,それを,国土地理院からウェブ上に公開されていた「ウォッ地図」(当時)で緯度経度を読んでいました.その後,この地図は「地理院地図」(ウェブ1)に移行しましたが,標高も表示され,重宝しています.また,これにグーグルマップ(ウェブ2)の航空写真やグーグルアースを併用することで,位置を確認することもできます.

 

その後,「登山用のGPS」を入手し,その場で緯度経度を記録することができるようになりました.

【ウェブ1】国土地理院,「地理院地図(電子国土Web)」.https://maps.gsi.go.jp/(2022.7.13 閲覧)

【ウェブ2】「Google マップ」.https://www.google.com/maps/(2022.7.13 閲覧)

3次メッシュとは

かつては標本産地の位置情報を日本測地系の3次メッシュで示していたものを,現在では当館の地衣類の標本産地の情報を世界測地系の3次メッシュで示すように変更しました(緯度経度から計算式によって変換できるし,地理院地図でも地図上に表示可能です).では,その3次メッシュとは何なのか,ここで確認しておきましょう.

 

総務省が,統計情報をとるために「地域メッシュ」を定めています(【ウェブ1】の情報を元に,一部改変し以下にまとめてあります).このうち最も大まかな区分となるのが,第1次地域区画(1次メッシュ.緯度40分,経度1度の大きさ)で,20万分の一地形図図幅に相当します.これを,2万5千分の一地形図図幅の大きさに区分したのが,第2次地域区画(2次メッシュ.緯度5分,経度7分30秒の大きさ)で,10キロメッシュとも呼ばれます.これを更に東西南北とも10等分ずつ,100の区画に分割したのが,基準地域メッシュ(第3次地域区画)で,これが3次メッシュです.緯度で30秒,経度で45秒の大きさがあり,一辺がおよそ1kmであることから,1キロメッシュとも呼ばれます.

【ウェブ1】総務省統計局,「地域メッシュ統計について」.https://www.stat.go.jp/data/mesh/m_tuite.html(2022.7.13閲覧)

地衣類など,植物・菌類分野における3次メッシュの使用

日本国内における植物の分布状の詳細な記録が,広島大学の植物分類学・地理学講座の堀川芳雄によってまとめられ,1970年代に刊行されました(文献1).そこでは,全国を2万5千分の一地形図の図幅(2次メッシュに相当)をメッシュにした地図を使用し,それぞれの種の分布を示したのです.「メッシュマップ」を使った,生物の分布表示を国内で初めて本格的に使用した例でした.

 

同研究室では,その後,この水平分布図に,標高100mごとに区切り南北に軸をとった垂直分布図を加え,更に論文に使用しやすいようにコンパクトにするため水平分布図のほうを5万分の一地形図図幅をメッシュにした,複合地図を作製しました.多くの蘚苔類の分類研究者を輩出したその研究室の収集標本のラベルには,5万分の一地形図図幅と2万5千分の一地形図図幅名を記入する伝統がありました.彼らの論文には,この地図を使用した分布図がよく使用されていました.地衣類では,中西稔,生塩(おしお)正義らの学位論文(文献2,3)にも,こういった地図が使用されました.大学院生の時にこの研究室に所属した原田も,標本には5万分の一地形図図幅名を記入しておりました.

 

さて,千葉県に目を移すと,この地域を2次メッシュ(2万5千分の一地形図図幅に相当)で分けると,77になり,かなり粗いメッシュとなります.分布状況を把握するには,より細かなメッシュが必要となります.それが3次メッシュだったというわけです.

【文献1】堀川芳雄.1972-1973.日本植物分布図譜.全2巻.学研,東京.

【文献2】Nakanishi M. 1966. Taxonomical studies on the family Graphidaceae of Japan. J. Sci. Hiroshima Univ., ser. B, div. 2 (Bot.), 11: 51-126, 5 pls.

【文献3】Oshio M. 1968. Taxonomic studies on the family Pertusariaceae of Japan. J. Sci. Hiroshima Unv., ser. B, div. 2 (bot.), 12: 81-163, 6 pls.

 

 
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