調査研究事業:「房総(千葉県)の地衣類誌」の概要
 
第2の目標: 千葉県内における地衣類の分布の解明
 
2-5.地衣類の分布調査
3次メッシュは千葉県に5400以上

3次メッシュを単位として千葉県全土における地衣類の分布状況を把握するには,5400以上のメッシュを調査する必要があります.しかし,ある程度の精度をもって調査するためには(たとえ他の仕事がなくて,この調査に専念したとしても),年間で50のメッシュを調査することでさえ容易ではありません.この調子では一通り調査するのに50年以上かかってしまいます.また,証拠標本を残すとなると,その数も膨大になり,様々な問題が生じます.そこで幾つかの工夫をすることしました.

 

空白の2次メッシュを埋めていくことから始める

「2-1.それまでの分布解明状況」で,2012年頃までに収集された地衣類標本の産地を地図Aに示しましたが,それを一部改変したのが右の地図です.青の線で区分けしたのが2次メッシュ,その中に黒い線で区切られた細かなのが3次メッシュで,標本が採集された3次メッシュを赤で塗ってありました.右の地図では,1点の標本も採集されていない2次メッシュを薄い黄色で塗ってみました.県の北部でその数が多いのが分かります.更に,黄色く塗られていない2次メッシュであっても,1点2点しか採集されず,そのメッシュの地衣類相が標本のデータからは把握できないものもありました.

 

そこで,まず,2次メッシュごとに,最低でも1箇所は調査していくという方針を立てました.

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(2012年頃に,千葉県生物多様性センターのGISのシステムを使用して,原田が作成した地図を編集)
「地衣類分布調査」の方法

まず調査地点の選定から始まります.その地域を見回して,中でも地衣類相が豊富そうな場所を選びます.神社や寺院の境内や公園などが候補になることが多くなります.直径約50mを1地点として,中央付近の緯度経度を計測し,その地点の位置情報とします.調査は,そこに出現する全種を網羅する採集に努めます.ただし,痂状地衣については基物ごと採集する必要があることから,採集できない事例が多いため,採集は可能な範囲にとどめます.一方,大型地衣(葉状地衣と樹状地衣)は全種を採集できるため,採集されなかった種は,そこに存在しなかったと評価することができます.

 

この調査による採集品を標本化するにあたり,スペースと経費の節約のため,標本パケットのサイズを小さくすることにしました.現場で同定が難しくなく,分類学的に問題ない種類については特に小さなパケットで対応し(2012年から導入),簡単な検査で同定が確認できるものはやや小さなパケットを使用し(2014年から導入),分類学的な検討が必要なものや,大きなものは従来どおり大型パケットを使用することとしました.

 

パケットを小型化することに若干の不安はあったものの,これまでのところ(2022年7月現在),問題はなかったと考えております.当面,このシステムを継続していく予定です.

 

 
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