#463 Leptogium rivale Tuck.

 

淡水生のラン藻地衣.亜高山帯の,河川源流部の細流において,ほぼ常時水没している岩上で確認された.

 

【外部形態】地衣体は鱗片状で,基物岩上に直径1~2 cm,厚さ 2~4 mm ほどの円形の餅形の密なマットを作り,基物に固着する.マット裏側(基物側)の裂片は縁が波状となり,更に大きく波曲し,後にまばらに分枝,幅は概ね 1~2 mm,背面は暗灰色,光沢は無く平滑,わずかに突出,腹面はやや淡色で地衣体中央部では更に淡色,概ねわずかに窪むか,所々でわずかに突出し,裂片先端付近では多少とも内巻する.裂片腹面中央部の突出部あるいは類縁部から,密な束状の淡色の菌糸(rhizohyphae)を生じ,基物に固着する.付着箇所は腹面に点在する.マット表側の裂片は多少とも大きく波曲し,多少とも立ち上がり,しばしば幅の狭い(概ね0.3~0.5 mm)裂片を生じ,これが顕著に立ち上がる.背面は暗灰色,光沢は無く平滑.裂芽を欠く.子器は裂片中央部か類縁部に多数生じ,直径 0.3~1.5 mm,基部は顕著にくびれ無柄,子器盤は橙褐色か赤褐色,粉霜を欠き,初期はやや窪むが,やがて平坦となり(概ね直径 0.5~0.5 mm),後に多少とも突出する.子器盤は,淡橙褐色の果殻(幅 0.02~0.04 mm)に取り囲まれ,更に全縁あるいは多少とも不規則なわずかな突起を生じる果托で薄く取り囲まれる.

【内部形態】地衣体は厚さ 40~55 μm.上皮層は厚さ 4~7 μm,1 細胞層からなり薄壁.下皮層は厚さ 3~7 μm,1 細胞層からなり薄壁.髄層には共生藻(Nostoc,糸状であることは確認しにくい)が全体に分布し,上皮層の近くで最も密,下皮層の近くもやや密,中央部はやや疎ら,薄壁の繊維状の菌糸(概ね直径 2~3.5 μm)が全体に分布する.果托は子器縁部では厚さ約 40 μm,基部に向かって厚くなり,75~90 μm.果托皮層は子器縁部では一細胞層で厚さ 5 μm程度で目立たず,基部の近くでは真正異型菌糸組織か亜異型菌糸組織(子器縦断面では,概ね長方形の細胞が果托表面に対し垂直に 2~4 細胞が列をなす)で厚さ 30~50 μmに達する.果托髄層は,子器縁部では共生藍藻が密に分布し菌糸は目立たず,その他では繊維状の菌糸(内腔は直径約 3 μm,菌糸壁はごく薄い)がまばらかやや密に分布する.果殻は子器縁部(裸出部)では広がり,厚さ 25~40 μm,異型菌糸組織あるいは亜異型菌糸組織(概ね楕円形の細胞からなる),最外層(厚さ約10 μm,4~8 細胞層)が褐色か暗褐色化するが,その他は概ね無色,繊維菌糸組織,子嚢層側方では厚さ約 15 μm,基部付近では厚さ 20~40 μm.子嚢下層は周辺部で薄く,他は 15~25 μm.子嚢層は厚さ 100~115 μm.側糸はわずかに分枝癒合し,直径約 1 μm(菌糸内腔),先端細胞は多少とも膨れる(直径 2~3 μm).子嚢は長さ約 100 μm,直径 10~15 μm,概ね円筒形(多少とも中央部が膨れる).子嚢胞子は 1 子嚢中に 8 個,通常は2列に生じ(時に1列),楕円形,19~23 × 8~9 μm,亜石垣状多室,3 横隔壁,中央部では 1~2 縦(あるいは斜めの)隔壁があり,先端部では縦隔壁を欠き,細胞壁・隔壁とも薄く,無色,外膜を欠く.(文献1を一部改変)

【化学成分】-

【分布と生態】長野県の亜高山帯の源流部の穏やかな細流において,半ば水没する岩上で発見された.

 

ミズアオキノリ/水青木海苔

Leptogium rivale Tuck.

【異名等】

【文献1】原田 浩. 2015. 日本新産の淡水生アオキノリ属地衣類,ミズアオキノリLeptogium rivale. Lichenology
13(2): 45-51.

執筆:原田浩,2021