#479 Scytinium lichenoides (Zahlbr.) Otálora et al.

 

石灰岩生の葉状のラン藻地衣.裂片の縁がいくつにも細かく分枝し,しばしば樹状の様になるのが特徴.石灰岩地で最もよく見られるイワノリ科の一つである.(文献1)

 

【外部形態】地衣体は葉状ないし鱗片状,ときに直径5cmを超すマットを形成する.地衣体中央部基部の裂片は比較的幅が広く1~2(~5)mmに達するが,縁部は斜上あるいは直立し,細かく線形の小裂片を生じ,繰り返し分枝し,その末端ほど幅が狭くなり(0.05mmほど),しばしばほとんど円柱状となり,基部の幅広い裂片が隠され樹状に見えることがある.一方,裂片の縁部の小裂片がほとんど伸長・分枝せず,裂片縁部に細かな,短い小裂片が並んだ状態になることもある.裂片の表面は,細かなしわが多少ともあり,褐色を帯びた灰青色から暗褐色,わずかに光沢がある.

子器は比較的まれ,裂片の中央部から類縁部に生じ,無柄かやや圧着,直径0.4~0.85mm.果托は均一に薄く,子器縁部からしばしば裂芽状の幅の狭い小裂片を生じる.子器盤は窪むか著しく窪み,粉霜を欠き,橙褐色,光沢があり,半透明.

【内部形態】地衣体は厚さ80~190µm,上皮層・下皮層とも1細胞層からなり,厚さ7~14µm.髄層は,繊維状の菌糸が埋もれ,フォトビオントはNostocで数珠状.果托皮層は1~2細胞層,上部で厚さ7~10μm,基部ではときに20µmに達する.果殻は最上部で厚さ50~60µmで異形菌糸組織,下方に向かって薄くなり,子嚢層の側方基部で約15µmで亜異形菌糸組織,子嚢層の下方では再び厚くなり中央部で75~90µmの異形菌糸組織となり,細胞は子嚢下層の近くで小さく下方で大きい.子嚢胞子は23~38×11~16µm,楕円形から紡錘形,先端は丸いかやや尖り,石垣状多室,横隔壁は6~8.(文献1を一部改変)

【化学成分】-

【分布と生態】北海道~九州.石灰岩生.主に石灰岩上と周辺の蘚苔類マット上,あるいは土上に生育する.日本産Scytiniumヒメイワノリ属の中で,最も普通に見られる種.(文献1を一部改変)

 

ヒメトサカノリ(ヒメトサカゴケ)/姫鶏冠海苔(姫鶏冠苔)

Scytinium lichenoides (L.) Otálora, P.M. Jørg. & Wedin, Fungal Diversity 64: 290 (2013) [2014].

【異名等】≡Tremella lichenoides L., Sp. pl. 2: 1157 (1753). ≡ Leptogium lichenoides (L.) Zahlbr., Cat. Lich. Univers. 3: 136 (1924) [1925].(文献1)

【文献1】原田 浩.2023.石灰岩生地衣類(2).ヒメアオキノリ属Scytinium(イワノリ科 Collemataceae).Lichenology 21 (1): 1‒17.

執筆:原田浩,2024.1