1.日本の地衣類の多様性

1-1.日本産地衣類の種数,環境の多様性

(1)日本に分布する地衣類の種数

日本にいったい何種の地衣類が分布するのでしょうか?

2004年の時点には1602種の記録があることが分かっていました(文献1).その後も,新種や日本新産種の発見があり,種数は確実に1700以上になっています.しかし,まだまだ名前のわからない種類は多いのです.新種も発見されることでしょう.そして最終的には,2000種を超えるのは間違いないでしょう.では,2500種になるかというと,それはまだ見当がつきません.将来の研究成果を待ちましょう.

 
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(文献1)原田浩・岡本達哉・吉村庸/ 2004/ 日本産地衣類および関連菌類のチェックリスト/ Lichenology 2(2): 47-165.

(2)多様な気候と植生,地衣類相

このように多様な理由として,環境の多様さが挙げられます.本州中央部を例にすると(千葉県など太平洋側をイメージしてください),低地は暖温帯(千葉県全域が含まれる.照葉樹林など),少し高くなると冷温帯(ブナ林など),更に亜高山帯(シラベなどの針葉樹林),そして標高3000m近くなると,いわゆる「高山帯」(ハイマツ低木林,矮性低木群落,高山荒原など)が現れます.これらの植生帯ごとに,異なる植生が発達することは良く知られていますが,生育する地衣類の種類相にも違いが見られます.

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高山と,そこに見られる地衣植生:   ハナゴケ属を主体とした地上生群落 岩上の地衣群落
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亜高山帯針葉樹林と,地衣類:   朽木上によくみられるウグイスゴケ 樹幹上のフクロゴケ属
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冷温帯ブナ林などの落葉広葉樹林と,地衣類:   ブナの木肌は,地衣類模様 カブトゴケ属
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暖温帯の照葉樹林と,付近で見られる地衣類:   暖温帯を代表するウメノキゴケは,暗い照葉樹林内には見られない 暗い林内には,このマルゴケ属のように,目立たない種がほとんど

(3)特殊な環境と,独特な地衣類相

地衣類は極地や砂漠など,過酷な環境に生育することで良く知られています.日本ではこのような場所はない代わりに,高山は類似する環境といえるでしょう.さらに,海岸など他の生物が暮らしにくい特殊な環境にも地衣類は特異な群落を作っています.

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海岸:特異な海岸生地衣類が生育する:   イソダイダイゴケ ゴマダラゴケ