1.淡水生地衣類って何?

河畔あるいは河床などで,定期的に水没する岩上に生育する地衣類が,淡水生地衣類です.岩がむき出しになる河川の中~上流で,このような地衣類が見られることになります.

  ほとんどいつも水没している箇所に生育するものを,淡水生と呼ぶのは当然ですが,一年に何度かあるかないかの洪水の時にだけ水没する箇所に生育するものは,淡水生と呼ぶのには違和感があります.しかし,両者の境界をはっきりと引くことは難しいので,ここでは,河畔の岩上に見られる地衣類という広い意味での淡水生地衣類について紹介していきます.
 
これぞ淡水生地衣類
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水が清らかな渓流から顔を出しそうな岩の表面には,左の写真のように,緑色など様々な模様が見えることがあります.これらは淡水生地衣類かもしれません.この写真では,鮮やかな緑色はサワノミドリゴケEndocarpon japonicum,くすんだ緑色はサワイボゴケVerrucaria denudata,暗い赤褐色のはクロサワイボゴケVerrucaria aquatilisです.これらはまさに淡水生地衣類の代表です.

 
これも淡水生地衣類?
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開けた河畔に露出する大きな岩(写真左)の上にも,様々な地衣類が生えます.淡水生と呼ぶにはほど遠い,普段はカラカラに乾いたこのような環境に特異的に出現する,チヂレケゴケEphebe japonica のような地衣類(写真右)もあります.

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開けた河畔
open place  

左の写真は高知県の四万十川の中流です.

このように,河原に大きな岩が露出していると,その水際には特異な地衣類相が発達します.

dermatocarpon 例えば,このカワイワタケDermatocarpon miniatumは代表的な淡水生地衣類ですが,このように葉状(ようじょう)で目立ちやすい種類は例外的な存在です. photo
staurothele 淡水生地衣類の多くは,この写真のように,岩の模様にしか見えないような痂状(かじょう)という形の種類です.中央の薄い緑褐色の部分は,ミドリサネゴケStaurothele iwatsukii.淡水生地衣類の代表種で,カワイワタケとともにアナイボゴケ科Verrucariaceaeに属します.
 
・・・・・さらに周辺の,水辺を離れた環境を見ると→「1-1」へ
 
森の中の小さな滝,小さな流れ
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(左写真)豊かな森を行くと,たまにこんな小さな滝に出会います.この流れの中や周りにも地衣類は暮らしています.

(右写真)すぐ脇の湿った岩の黒いしみは,ゴマダラサワイボゴケHydropunctaria rheitrophilaで,流水中にもよく見られます.

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waki もう少しだけ滝から離れた岩の上(写真左)には,よく緑色の蘚苔類(せんたいるい)が生えていますが,一見すると何も生えていないように見える部分にも,クロマルゴケPorina guentheri(右写真)などの目立たない地衣類が生えています. photo
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