剣山における地衣類調査
1981~1982年の調査

 剣山の地衣類を採集した記録が残されているのは,宣教師のFaurie(フォーリー)によるもので,1900年6月でした.その標本は,パリのHue(ユー)によって研究され6種3品種が報告され(文献1),後にウィーンのZahlbruckner(ツァールブルックナー)は1新変種を含む4種を報告しました(文献2).1920年代からは日本の研究者や採集家が訪れ,朝比奈 泰彦,犬丸 愨(いぬまる すなお),佐藤 正巳らにより様々な論文中で剣山産の標本が引用されていくことになります.

 剣山周辺の地衣類相を初めて調べたのは,伊延 敏行で,自身の採集品に基づき剣山周辺から155種32変種24品種を1971年に報告しました(文献3).

 1981~1982年の2年間,原田は卒業研究のため,積雪の無い季節(5月~11月)に何度か訪れ地衣類を調査しました.右の地図の緑色で囲った範囲の全てのルート(丸笹山北斜面を東西に走るルートを除く)を踏査しました.調査結果は「剣山の大型地衣類相」のタイトルで卒業論文(1983年)として提出し,1987年に論文(文献4)として公表しました.169 種が掲載されました.

 論文は大型地衣類(葉状地衣と樹状地衣)のみを対象としましたが,痂状地衣も採集し,その標本の多くは現在では千葉県立中央博物館に保存されております.

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剣山と周辺地域.地理院地図(電子国土Web)の標準地図に地域メッシュを表示した地図を元に作図

【文献1】Hue A.M. 1901/ Lichenes extra-europaei., pluribus collectibus ad museum Pariense missi./ N. Arch. Museum, ser.4, 1: 272-20.

【文献2】Zahlbruckner A. 1927/ Additamenta ad lichenographiam japoniae./ Bot. Mag. Tokyo 41: 313-364.

【文献3】伊延敏行.1971/ 剣山とその周辺の地衣/ 剣山県民の森総合学術報告書: 96 - 105. 徳島県,徳島市.

【文献4】吉村庸・原田浩.1987/ 剣山の大型地衣類相/ 高知学園短期大学紀要 (17): 303 - 326.

2022年の調査

 2022年,原田と坂田は,「日本の地衣類(ウェブ図鑑)」の山地帯から亜高山帯の範囲を充実させるため,西日本で最も地衣類相が豊かな,この剣山を調査しました.

 調査は実質5日間に及びましたが,生態写真の撮影に時間を費やしたため,以下のように調査の範囲は限られました.

 山頂付近から刀掛の松,行場付近,大剣神社から西島,西島から見ノ越,丸笹山の夫婦池の周辺,丸笹山の北側のルート.(右の地図の橙色が踏査路,このうち集中的に調査した範囲を緑色で囲みました)

 この調査によって,1981~1982年の調査で確認された種のうち,幾つかは,再発見されませんでした.一方,記録されなかった種を幾つか確認することができました.

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剣山と周辺地域.地理院地図(電子国土Web)の標準地図を元に作図
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2022年の調査にあたった坂田と原田   刀掛の松付近   テリハゴケ Parmelia laevior

剣山山頂付近.後は次郎岌(じろうぎゅう)

 

山頂へ向かう登山道

 

剣山では低木上に多い.

四国山地に多いウメノキゴケ科

 
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モンシロゴケ Parmelia marmorophylla   センニンゴケ Dibaeis baeomyces   ムカデゴケモドキ Phylliscum japonicum

白斑が美しい.剣山の低木上に多い.

四国山地に多い

 

開けた登山道脇の地上に生育している

 

 

四国山地では,チャートなどの

非石灰質の岩上に多い

2022年の調査にあたり,以下の方々にお世話になりました.お礼申し上げます.(敬称略,五十音順)

株式会社アサノ 社長 浅野 敏行,劔神社,徳島県西部総合県民局保健福祉環境部(美馬)環境担当 主事 鎌田 航大, 箱助林業株式会社,林野庁 四国森林管理局 徳島森林管理署 総務グループ 事務管理官 中西 真矢