第17章 干潟の再生![]() 干潟再生に関する主な動向 東京湾では埋め立てや護岸工事で干潟がなくなり、青潮の発生をはじめとする海洋生態系の破壊が深刻になりました。近年になり、漁業や渡り鳥の飛来地、水質浄化作用など生物多様性の保全に不可欠な干潟の役割と浄化機能が大いに見直されています。 また国連や世界各国も下記のような条約を批准し、環境保護政策を推進しています。
干潟の再生とは 干潟再生とは、かつての自然干潟が経済成長による埋め立てで消失したり、人口集中に伴なう生活排水増加などによる環境悪化で失われた干潟の機能を回復することです。 しかし一度干潟が失われると、多くの生物が生息する生態系全体を同じ状態に復元することは、大変難しくなります。干潟の再生については、環境収容力を的確に把握する持続性の哲学は大切ですが、健全な自然を維持するという思想が実現できるための条件の整備が必要です1)。 海外(サンフランシスコ湾)の湾保全事例 サンフランシスコ湾は水質汚染が深刻化し、1960年代に埋め立て計画に対して市民運動が起こりました。 1964年カリフォルニア州法としてマクアティア・ペトリス法(McATEER-PETRIS ACT)が制定され、サンフランシスコ湾保全開発委員会(BCDC)が設立されました。 サンフランシスコ湾計画は、この湾と海岸線をかけがえのない自然資源として保全するものです。長期(数十年)の保全計画や、住民参加、ビジターセンターなど注目すべき点が多くあります。三番瀬にも東京湾全体を調査し、保全するためにBCDCのような組織が望まれます。 日本の干潟再生 (1)稲毛海岸の浜(千葉市) 花見川河口の検見川の浜と並んで整備された人工海浜で、砂浜は砂利を多く含み、生息生物も少ないです。生態系を復元したというより、水辺にコンパクトな海浜公園を作った程度です。 (2)人工干潟について 埋め立てなど開発の代償措置として、ミチゲーション(mitigation )と呼ばれる開発による環境への影響を軽減するための保全行為がなされます。代償といっても、直立護岸に比較すると、干潟に見えなくもありませんが、生態系を復元し、維持管理し続けることは、容易ではありません。
三番瀬干潟再生計画 (1)三番瀬再生の目標 五つの「再生の目標」が決まりました。
(2)干潟再生計画案の検討 三番瀬再生計画案では、海と陸との連続性の回復との認識が強調されており、高く評価できます。しかし、検討会議の最大の対立点といわれた
という2点(中間とりまとめ2002年12月)について、具体的な部分(市川市塩浜3丁目の護岸イメージ)では10.9mの張り出しとなっています。わずかに残された泥干潟を、埋めることについては疑問です。 また、県広報誌では、検討に延べ6千人が参加し、「千葉モデル」といわれている、としていますが、「住民参加といっても、傍聴者は会議の最後に2〜3人が発言を許され、聞き置かれるだけ。」(永尾俊彦)との批判も有ります。 さらに、現代まで進められた開発指向の埋め立てを支えた仕組みとして、公有水面埋立法と行政主導、浚渫埋立工法の制度や技術が機能したといえます(辻淳夫)。今後開発されてしまった干潟の再生を実現させるためには、自然再生推進法の定着・強化や、再生科学や技術の向上、長期的にどのような自然を目指すかの戦略の確立が必要です。 再生計画案で示された5つの再生目標を真に実現するためには、国や県、市町村、企業、漁民、住民、県民など全ての人々が、自然環境の保全や再生を基本にした認識の徹底が必要だと思います。 (桝井完治)
引用文献
三番瀬再生計画検討会議事務局(2004) 三番瀬再生計画案 pp. 109 市川市(2003) 三番瀬の再生に向けて pp.266 永尾俊彦(2004) 生活と自治(生活クラブ生協) 2004年3月号 pp.35 辻淳夫(2003) 自然再生事業 築地書館 pp.280-284
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