第20章 わたしにとっての三番瀬の価値
(演習参加者の紹介に代えて)



 演習参加者一人一人の三番瀬についての思いは様々です。それぞれが、三番瀬の価値を考えました。(五十音順)

伊藤弘輝

 海を埋め立て、経済価値を生み出させる事は、そこに生活する人間にとってはかなりの魅力です。早い者勝ちで埋め立てを完了してしまった、浦安地区がその良い例です。しかし、人間と自然が共存して行くためには、自然の形での環境管理が必要です。その嚆矢としての位置付けが三番瀬の再生事業であり、経済的なメリットを抑えつつ、自然と協調するテストケースでもあり、決して、身近な公園程度と考えてはいけない事なのです。

内山真義

 三番瀬に価値があるといってもどれだけの人が理解できるのでしょう。いくら数字を並べ立てても、実感はなかなか得られません。かつてはどこにでもあった当たり前の風景が、人間が経済的豊かさを求めたために、埋め立てられ、近代的な都市となりました。これを魅力的と感じる人々もたくさんいます。無くしてしまって、元に戻らないと後悔し、懐かしいと感じるのは実体験がある人だけ。子どもたちには伝わりません。自然との共存と口で言うのは簡単です。三番瀬の価値をどう伝えていくのか、大きな、大きな課題ではないでしょうか。

小川かほる

 様々なことを現実のものとして具体的に考えることができるのがすごい。便利で楽な、いわゆる豊かな暮らしを求めた日本の戦後を「貧困からの脱却」の時代とすれば、その開発の意味を考えることは、今まさに地球的な課題である「開発と環境」の調和につながります。自然と人間の共生をなまなましく議論できる場となっています。

重竹茂

 ふなばし三番瀬海浜公園から沖を望むと、まず目に付くのは潮干狩り場の区画を仕切った構造物です。その向こうは、右手に浦安の埋め立て地、さらにその向こうには丹沢の山々、そしてお天気に恵まれれば富士山が望めることもあります。
 そしてそれ以外は、たまに船を見ることがある以外は、何もありません。
 日本の多くの海岸で多く目に付く、そして景観をぶち壊しにするテトラポットなどの波消しがないのです。
 雪がうっすらと積もった朝にここを訪れたことがありますが、波が静かに寄せては返し、そのリズムにあわせて千鳥(?)が波打ち際を駆けている、人工海浜ということを知っていても日本の海岸の原風景を思わせます。
 それが三番瀬なのです。

城之内健一

 平成の不況のなかで、県民の環境意識が高まり、埋め立て問題を再度考え直す事を選挙公約とした知事が当選した。三番瀬は、京葉線で東京から来れば世界最大のテーマパーク(娯楽の場)の先、千葉から来れば、京葉工業地帯の終わりに位置し、江戸川・真間川の河口でもあるが後背湿地は全く存在がない場所である。
 そのような社会的な環境(経済)及び地理的な環境を踏まえた、三番瀬が円卓会議を開いて自然再生をする事が三番瀬の価値である。

新保浩一郎

 人は、本来自然から離れて生活しているわけではありません。しかし、人はそのことを忘れがちです。特に人工的に作られた都市は、人に自然を忘れさせる環境です。
ニューヨークのハドソン湾には鮭が遡上すると聞きます。都市に近接する場所に自然を残すことができれば、都市の人々も自らが何者であるかを思い出すことができるでしょう。
三番瀬は、まさに、都市に隣接して奇跡的に残った生きた海です。東京湾周辺に住む人々が自然を思い出す場所として、お金に代えられない価値があるのではないでしょうか。

高野史郎

 三番瀬! こんなに長い間、悩んで考え続けたことはありませんでした。三番瀬を楽しくわかってもらうことは難しい。観念的な“お勉強”にはしたくないのです。どんな話題を提供できるか? 三番瀬の西側から習志野まで、何回も自転車で、歩いてまわったけれど、まだ嵐の夜だけ知りません。

都筑良明

 三番瀬再生計画検討会議(円卓会議)の最初の1年間に通い詰めたことが随分と役に立ったと考えています。専門家、漁業関係者、企業代表、住民代表が一同に会し、それぞれの立場から意見を交換し、最初は一見かみ合っていないとも思えた議論を続けていくことで、立場が異なると見方や考え方が異なることを理解し、意見の相違点が次第に明らかになっていく過程を1市民の立場で傍聴できたことは有用でした。環境問題の解決に一般市民の協力が必要となっている現状において、専門家として何を提供していけば良いかを考えるきっかけとなったと考えています。

寺田純子

 東京湾の最も奥にある三番瀬は、広大な干潟と浅瀬が広がっています。この三番瀬を舞台に数多くの生物が生息し日々の営みがあります。人間も自然界の一部であり、三番瀬で暮らしている生物の仲間なのです。人が生きていく上で今まで多くのものを犠牲にしてきました。一度失ったものは、二度と戻りません。今懸命に生きている生物・植物の声に耳をかたむけながら、私達は自然の力によって生かされていることをもっと謙虚に受け止めなくてはいけないのではないでしょうか。三番瀬は、優しく、時には私達に警告を発しながらそんなことを伝えていると思います。

疋田洋子

 三番瀬を船上から見たことがあります。エンジンを止め、棹をさしてみると水深1メートル以下。海底の白い砂地が見え、海水は思ったより透明で、何らさえぎるものがなく、燦燦とふり注ぐ太陽の光が印象的でした。海底では、10万年も前から変化を繰り返しながら出来た地形が広がり、一方陸上では、埋め立て地の上に近代的な建造物が立ち並んでいます。船に揺れながら三番瀬に立って、相反する二つの時の流れ、即ち、悠久と近代化の波を是非一度船上から見て下さい。感激ですよ。

桝井完治

 人間が自然を統御できると考えた科学万能主義であった時代に、地球は有限という思想をケネス・ボールディングは「宇宙船地球号」で示しました。千葉県には三番瀬があります。シギ、チドリが行き来する東京湾にわずかに残された貴重な干潟であり、自然環境が守られているかを判定する自然のリトマス試験紙です。自然を大切にするために、人々の意識が最も大切です。みんなで三番瀬に親しみ、ラムサール条約の登録湿地となるよう応援しましょう。

桝井幸子

  1. 海を学ぶ教材として、最も身近なフィールドです。
  2. 豊富な資料の蓄積があり、人が壊し黙殺してきた東京湾の海岸景観について、世代を超えて想像し共有できる場所です。
  3. 東京湾の最後部という地理的な特殊性を持たされ、干潟の現在及び将来の存在価値について認識する場です。
  4. 人と生き物の共生のために、人は水系とどんな関わりを持てばいいのか、どんな結果を生み出せるのかを試される場です。

横山清美

 どんなに経済的に豊かになっても、住みやすい街ができたとしても、人は自然がなければ生きていけないことがわかってきました。つまり人が生きていくには、三番瀬を大切にすることと教えてくれるのが三番瀬の海です。



みんなで考えよう。
  • みなさんはこの資料を読んで、三番瀬に興味をもてましたか? 
  • あなたは、どの人の考えに一番納得できましたか?