第19章 いま、市民は・・・



三番瀬の埋め立てと市民活動の歴史

 1970年代に自然保護運動として、東京湾の干潟保全・埋め立て中止の請願が国会で採択され、今日の三番瀬を残すきっかけとなりました。しかし、1980年代に埋め立て計画が再開されました。1990年代のなかばからは“三番瀬埋め立て計画撤回”を求めて、30万人もの署名を集める運動が展開されました。
 一方で、野生生物の生態調査や自然観察会などの生態系保護の視点とは別に、より広い分野で市民の立場から三番瀬を考えていこうとする運動も展開されて、三番瀬の地名が全国に広がりました。市民が計画段階から行政と情報を共有し、政策形成に意見を反映させていこうという市民活動がスタートしています。
 これらの自然保護・環境保全・市民活動など、さまざまなグループをつなぎ合わせることも目的の一つとして、1997年前後から、三番瀬のクリーンアップ活動が市川から浦安へ、そして船橋へと広がりました。
 2000年代になって、埋め立てが白紙撤回されてからは、市民セクターは三番瀬再生検討会議に環境保全活動団体や市民の代表として、参加しています。また、三番瀬の自然をまるごと体験して、多様な意見を持つ市民の合意形成をはかっていこうと活動も、各地で試みられています。

三番瀬にかかわる市民活動団体

 三番瀬をフィールドとし、定期的に生物調査や観察会を実施しているグループ、クリーンアップ大作戦などのイベントのための実行委員会、水の流れやまちづくりの視点から三番瀬を考えていこうとする団体まで、きわめて多くの市民団体が三番瀬にかかわっています。
 会の活動目的とか趣旨などの表現も、“東京湾の干潟と生き物を守る”、“三番瀬の保全を考える活動”、“住みよい環境を守り育てる”などの短い文章では、具体的にどこでどんな活動を展開しているのか分かりにくい部分も多いのです。
 三番瀬をグループ名につけていないけれど、かなり積極的に関心を持ち、地道な活動を続けているグループもあります。反対に、グループのリーダーの発言が目立つけれど、会全体としての活動は三番瀬にはあまりかかわっていない場合は、外部からはわかりにくいことになります。
 三番瀬の円卓会議に関連して、市民グループからの委員を選ぶにあたり呼びかけたのは、いままでに県などに意見書を提出していた18団体でした。その後、県からのリストには載っていなかった3団体が加わり、三番瀬市民会議(注)の参加団体は21となりました。
 そして、2003年8月、船橋駅前のきららホールで3日間にわたり“三番瀬フェスタ”が開催されましたが、このときの参加は14団体でした。行政とのかかわりに躊躇したグループもあったためです。
 以下のリストは、三番瀬フェスタなどに団体参加したり、三番瀬市民会議などで呼びかけた中で、連続的に活動しているグループです。

    市川三番瀬を守る会、 市川緑の市民フォーラム、 浦安三番瀬を大切にする会、 浦安自然まるごと探検隊、 NPO法人 行徳野鳥観察舎友の会、 NPO法人三番瀬環境市民センター、 三番瀬研究会、 三番瀬を守る会、 三番瀬市民調査の会、 三番瀬Do会議、 三番瀬ハゼを守る会、 三番瀬フォーラム、 三番瀬を守る署名ネットワーク、 自然と文化研究会theかもめ、 WWFジャパン、 千葉県自然保護連合、 NPO法人 千葉県不動産コンサルティング協会、 千葉県野鳥の会、 千葉の干潟を守る会、 日本自然保護協会、 日本湿地ネットワーク、 日本野鳥の会、 日本野鳥の会千葉県支部、 NPO法人 ベイプラン・アソシエイツ、 谷津干潟愛護研究会、 谷津干潟環境美化委員会、 まちネット・ふなばし
(五十音順)

クリーンアップの3つの事例から

 毎年10月下旬に、浦安、市川、船橋で三番瀬のクリーンアップ大作戦が実施されています。相互に連絡は取り合っているものの、ほとんど同時期に開催され、それぞれの市で実行委員会を立ち上げています。
 春頃には、その年のスケジュールや運営組織が次第にきまっていき、企画・作業・広報などの部会に分かれての検討が進められます。実行委員会には、市長の名前が出ることもありますが、実質的な計画と実施は、市の環境・清掃の担当者であったり、市民グループのスタッフであったりします。その連携作業も複雑です。三市とも実行委員会の構成や各参加者の役割分担などが異なります。
 いくつかの組織をつなげての活動は、運営委員会での表面的な議事進行よりも、多様な価値観をまとめ、方向性を打ち出していくための調整にかける時間とエネルギーの方が大変なのですが、この部分はほとんど記録に残りません。現場に入ってみないと、その苦労が実感されないのですが、細かい部分に入りすぎると、全体の動きが見えなくなりやすいという二面性の中で、どうバランスをとるかがネットワーク的な市民活動の一番難しいところでしょう。
 3市それぞれに“三番瀬の環境”が違いますから、クリーンアップする場所も違います。浦安では、ふだんは立ち入り禁止のコンクリートの護岸を越えて海に入る許可をもらい、干潟の海をきれいにしています。
 市川では、直立護岸なので海の中へは入れません。クリーンアップするのは、市川塩浜駅の南側のアシが茂っている埋立地です。グラウンドになっているところもあります。
 船橋では海浜公園があります。広い砂浜のゴミ拾い。第2部では、市民グループから提供された有機米のおにぎりやアサリの味噌汁、若い人たちのバンド演奏やミニ水族館の展示などもやっています。
 ところで、ゴミって何ですか? ビニールや空き缶などの人工物は、誰もが納得するゴミです。判断が分かれるのが、流木などの漂流物、打ち上げられた海藻や魚の死体などです。ここにも多種類の小さな生き物がすみわけしていて、有機物の分解作業をしていることには気がつかない人が多いようです。
 ゴミを拾うときの袋の数は、3種類の区分ですか? 集めたゴミは、燃える、燃えない、リサイクル・リユースなど、ゴミ問題から資源循環型社会を考えるきっかけにまで発展させていきたいものです。
3市のクリーンアップの比較調査、若い学生さんたちが実行委員会の中に入り込み、部活などで取り組んだら面白いテーマになると思います。

いま、市民は・・・“ひと・まち・三番瀬をつなごう!”

 今後設置が予定されている三番瀬円卓会議の後継組織に参加したり、あるいは行政の活動とは独立して、三番瀬の保全再生に参画していく市民が多くなって欲しいと思います。
また、身近な三番瀬のクリーンアップ活動に参加することが、なぜゴミが多いのかを考え、市民自らの生活からゴミを少なくするよう変えていく活動につながることを期待します。
 渡り鳥調査を続ける市民は、三番瀬のラムサール条約登録を目指した活動に取り組むでしょう。それぞれに主体的な活動を続けながら、三番瀬を背景に地域のまちづくりに発展していくことになると思います。
 今後はこういった活動に加えて、三番瀬を通じて、今まで以上に市民活動のつながりを深めていくことが必要となることでしょう。“ひと・まち・三番瀬をつなごう!”

(横山清美、高野史郎)

注:三番瀬市民会議は、三番瀬再生計画検討会議に市民からの委員をどう選び出すかのために集まったのが設立のきっかけです。三番瀬に関心を寄せる多くの個人、団体が幅広く参加し、ゆるやかに連携しながら交流を図り、情報交換、意見交換を目的とする市民のネットワーク組織です。


みんなで考えよう。

 日本では、何万人もの会員を有するNPOは少なく、多くは数十人から数百人規模の環境保全活動団体がほとんどです。大きな組織が必ずしも良いとは限りませんが、日本の市民グループの規模が小さいのはなぜでしょうか?