教室博日記 No.1864

 2020/09/10(木)

 川の流域を歩く観察会

 房総の山のフィールド・ミュージアムでは、毎年春から秋にかけて、清和県民の森や三島小周辺の山里を歩いたり、川の中の生きものを観察したりする野外観察会、「山の学校」を開いている(写真1)。昨年の夏までは毎回盛況で、子ども達の生き生きした声が響き、参加する家族ごとの少しずつ違う個性を見るのが楽しみであった(写真2)。しかし昨年9月から10月にかけて発生した台風や集中豪雨による被害のため山道が荒れてしまい(写真3)、秋以降の観察会は軒並み中止となった。

  • 写真1 昨年の房総の山のフィールド・ミュージアム「山の学校」の受付
  • 写真2 清和県民の森の小糸川で川の生きもの観察会(2019年)
  • 写真3 倒木や土砂崩れで荒れた林道(梅ヶ瀬渓谷 2019年11月)

 そして今度は「新型コロナ」である。今年度の9月までの「山の学校」はすべて中止となり、このまま行事の全くない1年になるのかと危惧していたが、何とか10月より、中央博物館の行事が再開することになった。

 そのひとつとして11月下旬に、小糸川の下流域を歩く観察会を予定しており、現在その準備を進めている。今回は充分な感染防止対策を取った上での開催ということで、募集人数も少なく、野外を歩く観察会としては時間も短くなるが、小糸川下流域を歩きながら、江戸期の川廻しや(写真4)、その後行われた河川改修のようす(教室博日記No.1818)を見ていきたいと考えている。また低いところだけでなく、流域の景観が眺望できるような小高い場所に登って(写真5、6)、いろいろな地形をじっくり観察したい。

  • 写真4 小糸川下流の川廻し地形
  • 写真5 人見神社から南方向を見る
  • 写真6 人見神社から西方向

 房総の山のフィールド・ミュージアムでは、数年前まで、小糸川や小櫃川など房総丘陵を水源とする河川流域を、下流から上流まで遡りながら、周辺の自然や歴史を探る観察会を行っていた(写真7)。

  • 写真7 以前行っていた川の流域を歩く観察会のようす

 このうち平成18年に始まった「小糸川を歩く」は、約2年をかけて8回の観察会が行われた。かつては海苔の養殖が行われ、その後企業城下町となった河口部の君津市街地、中流の田園地帯や鹿野山周辺の砂取場跡、二つのダムや川廻し地形が見られる上流など、流域の景観変化を楽しみながら源流にたどり着いた(図1)。

  • 図1 「小糸川を歩く」で歩いた範囲(8回分)(小田島高之氏作成の図に加筆)

 平成21年からは、「小櫃川をのぼる」という同じスタイルの観察会が企画され、源流を目指して16回の観察会が実施された。筆者も途中から案内者として参加したが、ヒルの猛攻撃による途中退散や、徒歩以外の移動手段がないなどもあり、残念ながら源流にたどり着けぬまま終了した。

 土台となる地学的環境やそこに生息する生物、そして自然に対する人のかかわりの歴史は、下流から上流へと変化し、流域ごとにも違いがあるので、川を単位とした観察会は地域の個性が見えておもしろい。今までとは少し違った切り口で、このような継続的な観察会を企画してみようかと考えている。

(八木令子)