せんかみばし
26 先神橋
銚子市 |
交通関係・道路・人道橋 |
煉瓦・鉄筋コンクリート造
1955(明治30)年10月 |
先神橋は,総武鉄道(総武本線の前身)によって1897(明治30)年に完成した跨線橋で,鉄道線路が猿田神社の参道を横切るため,神社側が用地を提供し,総武鉄道側が橋梁を寄進したとされている。1896(明治29)年11月23日付の設計契約書には,総武鉄道技手・高橋源次の名が見え,この人物が設計に深く関わっていたと推定される。なお,渡始祭は,1897(明治30)年旧暦10月27日・28日に執行された。
先神橋は線路に対してやや斜交しており,このため橋台も片側が菱角,片側が槍角となっている。橋台部分の構造はすべて煉瓦積みで,階段を兼ねた南側の橋台と,神社の境内へのアプローチとなる北側の橋台とに分かれる。どららもイギリス積み煉瓦で隅石と帯石を備えているが,橋台の高欄部分は全国的にも珍しいフランス積み煉瓦を用いており,この橋梁に対して特別な装飾を施そうとした意図を読み取ることができる。
また,桁の高欄部分には軽レールが使用されているが,刻印は見当たらず,また国有鉄道等で使用されていたレールよりもひとまわり小さいことから(最も軽かった45ポンドレール−約22.5kg/m−よりも小さい),どこかの産業用鉄道か軽便鉄道,軍用鉄道等からの発生品を使用した可能性が高い。
南側の橋台は階段となっており,砂岩(銚子石)を用いているほか,橋の袂には「先神橋」「明治三十年十一月」と刻まれた石柱がある。南側の橋台には2径間のアーチ部分が付帯し,このうち水路を跨ぐ南側のアーチは5枚巻の半円形アーチで,要石(キーストーン)が頂部にある。線路寄にある北側のアーチは,橋台が線路に対して斜めの角度を持つため,いわゆる斜めアーチの構造を持つが,煉瓦を捻じって積む「ねじりまんぽ」の構造ではなく,一般のアーチ橋と同様に水平に煉瓦を積んでいる。また,アーチの周囲には迫石があり,側壁には隅石を備えるなど,南側のアーチと異なる特徴を有している。アーチが見られるのは南側の橋台のみで,北側の橋台には無いが,おそらく水路や人道を通すためにこのようなアーチを設けたものと推定される。
なお,桁の部分はコンクリート桁となっており,北側の橋台の一部もコンクリート構造に置換わっているが,これは昭和48(1973)年に総武本線の電化工事が行われた際に,桁下の空頭が不足するため,桁をこう上したものと考えられる。したがって,これらの部分は原形ではない。また,橋台の上部に突起が観察されるが,当初,木桁が架かっていた際の痕跡ではないかと推測される。
神社の参道に架設された跨線陸橋として,フランス積み煉瓦の採用,帯石や隅石の存在,高欄のデザインなどディテールに様々な工夫が見られ,小品ながら明治時代の土木構造物として完成度の高い作品となっている。
(小野田 滋)
地形図 「旭」(略)
写真26-1 軌道から見る先神橋 (1998年) |
参考文献
1) 猿田神社社務所:猿田神社史料集,1991年