《熱海附近》 1929(昭和4) 油彩・カンバス・額  53.0×65.2cm
前へ 戻る 次へ
石井柏亭

1888(明治21)〜1955(昭和30)

 安井は、京都に生まれ、16歳で浅井忠の指導を受け、そこで同年生まれの梅原龍三郎と知り合い、生涯の友となった。その後、二人は相前後して渡仏。安井は、やがてセザンヌに強い感化を受けながら、独自の手堅い画風を開拓した。
 1914年(大正3)に帰国。第2回二科展に滞欧作44点を発表し、センセーションを巻き起こした。しかし、帰国後15年も低迷と模索を続ける。ヨーロッパとは異質の風土、自然、光の中でスランプに苦しむ。
 この作品は、1929年(昭和4)の第16回二科展への出品作。交差する樹々の間に穏やかな海がのぞく。動き豊かな描線を用いた装飾的な構成。日本の風土にふさわし清明な写実様式の基礎をなすものであった。長いスランプを脱し、「単化、変形、強調」(安井)による自己の様式のヒントを得た記念すべき作品である。二年後、太海を描いた代表作《外房風景》を発表し、不動の地位を築き、浅井忠が開拓した日本の写実様式を発展させ、やがて安井・梅原時代という歴史的一時代を築いたのである。(米田耕司)