《紫陽花》 1904(明治37) 水彩・紙・額  21.0×33.0cm
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大下藤次郎

1870(明治3)〜1911(明治44)

 戸外のすがすがしい大気の中で、青白色の紫陽花がひときわ明るく印象的である。画面は、全体に軽やかな筆触と澄明な色調で表わされ、光のゆらめきをも感じさせている。何気ない風景の一コマであるが、作者の精緻な観察の目と自然への愛情がうかがわれる作品である。大下は、水彩画を専門とした。ありふれた自然や日常風景の中に美を求め、各地に足を延ばして水彩画の研究を重ねた。
 この作品は、大下が「極めて研究によき場所」と考えて青梅で写生の日々を送っていた頃のものである。明治の後半は、水彩画の時代といわれるほど水彩画の隆盛をみたが、この時代の中心となったのが大下であり、1901年(明治34)に出版した技法書『水彩画之栞』は、15版を重ねるほどの驚異的な売れ行きを示した。このほかにも、大下は、現在の美術出版社の前身である春鳥会を設立し、『みづゑ』を刊行。さらには、水彩画講習所を作り、各地で講習会を行うなど、水彩画家としてだけでなく、さまざまな事業を通して幅広く美術の啓蒙に尽力した。(藤川正司)