《雪の中の小鹿》 c1869 油彩・カンバス・額  51.5×61.5cm
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クールベ

1819〜1877:Gustave COURBET

 クールベは、19世紀半ばに「写実主義」を標榜し、現実の世界に目を向けて率直な自然観照に基づいた画風を形成した。当時の主流であった新古典主義やロマン主義の理想化・空想化された絵画様式とは異なるもので、庶民の生活や労働者の働く姿など日常の情景をありのままに描いた。《石割り》や《オルナンの埋葬》などはその代表的な作品である。また、同様な視点に立って、風景や動物、裸婦なども積極的に取り上げた。特に1860年以降は、風景画や狩猟画など自然に目を向けた作品が多い。クールベの故郷、フランス東部のオルナンは、スイス国境に近く、クールベはその周辺の自然を題材に野生の動物を取り入れて描いた。特に鹿は恰好のモチーフであり、さまざまに組み合わされて登場する。この作品もその1点である。雪が降り止み、岩陰で休息する雌鹿と遠方を見ながらたたずむ雄鹿。厳しい自然に包まれてひたむきに生きる動物の凛とした姿がある。現実を直視し、対象を把握しようとするクールベの基本的態度が伝わってくる。(藤川正司)