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考古3本立て展 展示紹介
こんな風に見るともっと面白い


正福寺遺跡の籠入りドングリについて
福岡県久留米市 正福寺遺跡出土
福岡県久留米市 正福寺遺跡出土
 今回の展覧会展示品について、中央博物館にいる考古の専門家の意見を聞いたり、素朴な疑問をぶつけてみたりしたら、見るわれわれの側から見て面白いことが出てくるのでは・・・ということで、企画しました。
 ど素人の記者がいろいろ聞いてみました。というフィクションです。
 今回は、縄文時代後期の貯蔵されていたドングリについて、縄文時代の食生活にはちょっとうるさい、木野・実(きの・みのる と読む)さんに、折り目正しい考古の堀太郎と、胡桃入り月餅をどっさり食べて、糖尿になった不養生記者フーおやじが話し合いました。

画像提供 久留米市教育委員会
フーおやじ・・・「 これが、4000年前の、編み籠に入ったドングリですか。形が良く残っていますね。殻が光っているじゃないですか。ということは、遺跡が地下水面以下で、保存されていたんですね」
堀・太郎・・・「正福寺遺跡は、縄文時代後期の沢状の地形にあり、、そこに60基以上の掘り込まれた土坑がありました。土坑は用途が異なっていたようで、そのうち最も多かったのが、大量のドングリを水漬け貯蔵するためのもので、土坑からは、数万から数千個のドングリが見つかっています。」
フーおやじ・・・「 ドングリ貯蔵用以外の土坑もあるんですか?」。

堀・太郎・・・
「容器や木を漬けておくもの、穴の底全体を編み物で覆う別の用途の土坑もあります。
土坑の出土品では、100点を超える、蔓を使った編み籠がでてるのが注目ですね。」


編み籠 
画像提供 久留米市教育委員会
フーおやじ・・・
 「それも、面白そうですね。とはいえ、今日は、木野・実さんにお話を伺いますので、ドングリのほうに話を絞るとしましょう。・・・どんぐりの種類は何ですか?」
木野・実(きの・みのる)・・・「一言にドングリと言っても様々な種類があり、それらはおしりの形やテッペンの形、帽子のような殻斗の形によって分類することができます。」
フーおやじ・・・ 「フムフム」
堀・太郎・・・
「正福寺遺跡で出土した籠入りのドングリは分析の結果、イチイガシが主体となっていました。」
フーおやじ ・・・「はてね。イチイガシって、どんな木ですか。船の櫓にする木じゃなかったっけ」

木野・実(きの・みのる)・・・
「イチイガシはカシの仲間でも幹がまっすぐに伸び、そして堅いことが特徴であり、古くから農具や船の櫂、木刀などに利用されてきた樹木です。
 また、その分布域は房総半島を北限とする太平洋沿岸地域に広がり、特に房総半島では弥生時代中期の君津市常代遺跡や古墳時代前期初頭の茂原市国府関遺跡からも多く出土していることから、弥生時代以来周囲に生えていた植物といえます。」 
フーおやじ・・・「イチイガシのドングリって、見たことないですが、実物のドングリはどんな色と形なんですか?」

木野・実・・・

「小さいんですがね、これですよ。」






→イチイガシ
 標本提供 盛口 満氏

 
フーおやじ・・・「あんまし見たことないどんぐりですね。どうして、こればっかりどっさり貯蔵されていたんでしょうか?」
木野・実(きの・みのる)・・・「縄文人がイチイガシを大切に籠に入れて保管した理由を考えてみると、イチイガシはドングリの中でもアクの少ない種類の一つで、少し渋みがありますが炒って食べると大変おいしいからだと思います。このドングリを長期に保存して虫などの害から守るために水辺に穴を掘って保管したものと思われます。」 
フーおやじ・・・「イチイガシじゃないけど、トチのドングリを集めて保存してさらして粉にして、保存食にする記録映画を見たことあります。えらい手間かけても保存食料として必要だった見たいですね。今になると、トチ餅ってうまいなあっていう、ことで、名産品になってるみたいだけど。」
木野・実(きの・みのる)・・・「今でこそドングリは子どものオモチャくらいにしか使われなくなってしまいましたが、江戸時代くらいまで貴重な非常食・補助食の一つとして活躍していました。私たちの住んでいる近くには、まだドングリを実らせる木がたくさん残っています。改めてドングリを見つめ直し、機会があれば食してみるのも良いかと思います。 ただ、ナッツアレルギーの方は注意してくださいね。」 
フーおやじ・・・ 「実は、おやじは戦中派で、小山市や諏訪市に疎開していたのですが、そこでドングリも食べみたいです。サツマイモとドングリの粉を混ぜて食べたと聞いたような。
 ところで、イチイガシ以外に、簡単に食べられるドングリってあるんですか?」

木野・実・・・
「県内ではイチイガシはそれほど多く見られませんが、スダジイはよく見られます。
 年配の方々に話を聞くと、子どもの頃には、おやつ代わりスダジイのドングリをよく食べたという方も多いようです。
 生でも食べることができてかなりおいしいです。
 生で食べるとカシューナッツのような味がします。
 ビールのおつまみになりそうな感じ。炒って食べるさらにおいしい。 
 ここにありますけど、食います?」 
フーおやじ・・・ 「どれどれ、小さいですね。あれ、これいけますね。剥くのが面倒だけど、うまいじゃないですか。ポリポリ。」
木野・実

・・・
「マテバシイもアクが少なく食しやすいドングリです。
生では若干青臭いですが、なんとか食べられます。
 ここにありますけど、食います?」 

フーおやじ・・・
 「どれどれ、あれ、これ博物館の隣の公園にたくさん落ちてる、でかい艶々したドングリじゃないですか。無学にして知りませんでしたよ。糖尿対策で昼休みに歩くんですが、いままで、散々ふんずけて歩いてました。」
 ・・・食べてみて・・・
「ウム。こりゃ、私は、お話よりもうまいと思いますね。結構いけますよ。量も多いし。
ただで、簡単に取れて、どっさりある、これは理想の食い物ですね。
一月一万円生活をしようとするときの秘密兵器になりそうだなあ。」
・・・とただの所に深く感動する。

「ところで、マテバシイって、安房地方の近くの山の斜面を作っている照葉樹林に多い木ですか?。 ほら、5月ごろになると黄緑色の新緑になって、凄くきれいな色になるじゃないですか。たしか、鴨川市の小湊とか、和田町のあたりで、花見じゃなくて新緑見したくなるほど良い景色になりますよね。 ありゃ、なんていう木って聞いたら、たしかマテバシイだよって聞きました。 房総の絶景五指に入ると思いますぜ。
ただで、食ってよし,見て良し。いい木だなあ」」 

木野・実
・・・
冷静に・・・「感動してると長広舌ですね。
 ただのところに感動しているみたいですけど。
 それはさておき、これは、雑木林などでよく見かけるクヌギです。
 食べてみます?」 
フーおやじ・・「クヌギが食えれば、地震がこようが、何しようが、食いっぱぐれないですね。どれどれ・・・ギャア・・・シビレルヨー」」
木野・実・・・うれしそうに・・・「クヌギのドングリは、非常にアクが強く、生で食べるとシビレルほど渋いものです。食用にするにはアク抜きが不可欠です。」 
フーおやじ・・「ああ、ひどかった。是非、人にも勧めよう。」
堀・太郎・・・悪食でなくて良かったと思いつつ・・・「正福寺遺跡でも、クヌギなどアクの強いドングリを一箇所に集めている場所もあります。ドングリを食べようとした場合、その木の種類によって調理方法もかなり違ったものとなり、縄文人はそれぞれのドングリの特性をよく知っていたものと考えられます。」
木野・実・・・「ドングリの食べ方を紹介している本もありますよ。いわさゆうこ・大滝玲子作(1995)『ひろってうれしい知ってうれしい、どんぐりノート』文化出版局 という本がいいかな。 本の中で、しいのみをいって食べる。しいのみごはん。どんぐりだんご。どんぐりせんべい。どんぐりクッキー。どんぐりどうふ。などのドングリを利用した料理が多数考案・紹介されています。」 
フーおやじ・・・ 「縄文クッキーって。あれ、うまそうですね。」
木野・実・・・「今各地の博物館や学校で行なわれている縄文の食体験に「縄文クッキー」、「ドングリクッキー」作りがあります。そのレシピの一つが次のようなものです。
 クッキー15枚分
 ・材料 茹でクリ(200g)、クルミ(100g)、マテバシイ(100g)、ブタひき肉(100 g)、ウズラ卵(適量)、塩(少々)
・調理方法 マテバシイはしばらく乾燥させたものを使い、クリやクルミとともに皮を 剥いてすり鉢で粉状になるまで擂る。そこにひき肉と卵を入れて捏ね、適量をハンバー グ状の丸める。最後にフライパンなどで焼いて出来上がり。
 しあがりは、こんな感じ。
 実際に食べてみると、ドングリの青臭い香りが若干ありますが、素朴でおいしい味です。」 
・・・・ レシピの提供 木島桂子氏。
・・・・ 画像提供 稲葉理恵氏
フーおやじ・・・  「 この作り方は、縄文時代とおんなじですか? 豚挽き肉は、シカかイノシシの肉の代わりでしょうけど」
木野・実・・・「実際の遺跡からも、ドングリを使って作られた可能性のあるクッキー状の炭化物が、山形県押出遺跡などから出土しています。
けれども、材料については不明な点が多いです。
実は、現在のところ、縄文人がドングリを使ってどのような料理を作っていたのか、細かいところは、不明と言わざるを得ませんね。」 
フーおやじ と 堀・太郎・・・  この場のドングリは食い尽くしたので・・・「ではこれにて。ごちそう様でした。(^。^) (^。^)v 」 と去る。

その後、フーおやじは、公園で拾ったマテバシイどんぐりを食いすぎて、腹が痛くなりました。暴食には注意しましょう。

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