てらだほんけじょうぞうしせつぐん

17 寺田本家醸造施設群


神崎町

産業関係・醸造業・醸造所

釜場造 木造平屋建
醸造蔵 煉瓦造平屋建
製品庫 木造2階建
1894(明治27)年以前

神崎町は良質の水を有することから,明治期には町内に7軒の造り酒屋があった。現在醸造業を営んでいるのは2軒になってしまったが,そのうちの1軒が寺田本家である。

寺田本家の醸造施設群の中で,調査対象としたのは,木造平屋建の釜場蔵,煉瓦造平屋建で屋根裏部屋を持つ醸造蔵,そして木造2階建の製品庫の3棟である。これらの建築物は,寺田家に残されている1894(明治27)年制作の銅版画にすでに描かれており,建設年がこれより遡ることは確実である。

釜場蔵は酒造のため甑(米などを蒸す器,蒸籠の大きなもの)を用いて,釜の上で米を蒸す作業を行なうための建物である。現在はボイラーを使用しているが,以前はかまどに石炭をくべ,米を蒸していた。かまどはふたがされているが,当時のものが現存する。また蒸気を外部へ出すための越屋根が切妻屋根の上に付けられ,外観にも特徴を与えている。

外壁外側は全て漆喰で塗り固められているが,内部では柱・軒桁・貫などの構造材が現れている。小屋組は二重に小屋梁を架け,その上に小屋束を立てて母屋を受ける複雑な和小屋である。

醸造蔵はその構造から寺田本家では煉瓦蔵と呼ばれている。この建物は新酒の醸造・貯蔵庫として用いられている。煉瓦の長手面と小口面が各段ごとに交互に現れる,いわゆるイギリス積みで積まれた厚い外壁には窓がなく,密閉された空間となっており,温度や湿度を一定に保つ工夫がなされている。従来までの土蔵造りでなく,明治以後伝来した煉瓦造で醸造所を建てた点は注目される。

さらに小屋組にはクィーンポストトラス(対束小屋組)の本格的洋小屋が採用されている。小屋組を構成する陸梁の上には太い根太を架け渡して床を張り,屋根裏部屋を設けている。この空間は倉庫として用いられ,採光のために屋根窓が取られている。

製品庫は旧蔵とも呼ばれている。この建物の1階は製造した瓶詰めの清酒の保管庫として使用されており,2階部分は倉庫になっている。

切妻屋根瓦葺きの主屋に下屋が付く構成で,壁には漆喰が塗られている。現在壁の外部はトタン板で覆われているが,内部は釜場蔵同様軸部を現した仕上げを見ることができる。小屋組は太い小屋梁の上にそれと直角の桁行方向に2本の梁を架け渡し,その交点に小屋束を立てて二重梁を受ける複雑な和小屋である。また2階床は床梁の上に半割りの丸太を渡して根太とし,厚い板を並べて造っている。製品庫の構造は長大な部材を用いて堅固に組立てられているのが特徴といえる。

寺田本家醸造施設群にはこの他にも小規模な土蔵などが残されており,少しずつ増改築を加えながらも,使われ続けている。今なお明治期の醸造場の姿をとどめている現役の産業遺産である。

(江口敏彦)

地形図 「佐原西部」(略)

写真17-1 釜場蔵外観 (1997年) 写真17-2 釜場蔵小屋組( 1997年)
写真17-3 醸造蔵外観 (1997年) 写真17-4 醸造蔵小屋組 (1997年)
写真17-5 製品庫外観 (1997年) 図17-1 製品庫梁間方向断面図 (市川工業高校建築科)

図17-2 寺田本家全景銅版画 (1894年)
(日本博覧図 第9編 千葉県の部 初編)


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